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アライメントを崩す “ 3つの原因 ” とは?
2017.06.28こんにちは!日本オランダ徒手療法協会の香取です。
皆さんは、アライメントが崩れる原因を意識して治療することができていますか?
“ アライメントの崩れ=関節由来 ” のものと考えてしまいがちですが、実はそうではないんです。
アライメントを崩す要因は、大きく3つに分類することができます。
①関節由来 ②筋由来 ③神経由来
こうした要因をしっかりと評価することで、原因別にアプローチを選択することができます。
現場では、アライメントが崩れることで慢性的な痛みや、二次的な外傷や障害が起こる場面が多くありますが、そんな事態を防ぐためにも、しっかりと原因を見極めて目的別にアプローチを選択することが必要です。
原因を見極め、要因毎に最適なアプローチ方法を組み立てるスキルこそ、徒手療法(Manual Therapy)の本質だと言えます。
しかし、多くの教科書では、この部分が難しく書かれているため、上手く臨床に落とし込めていない人も多いのではないでしょうか?
そこで今回は、運動連鎖をテーマにして、出来るだけわかりやすくアライメントについて理解を深めていきたいと思います。
月刊スポーツメディスン No.185 11月号 2016年
連載 細胞/組織レベルの体内環境を考えることで治癒効果を引き出す①
-治癒経過を阻害する要因ごとにアプローチを変えろ!-
以下、T:土屋潤二、S:生徒で示し、対話形式で、オランダ徒手療法の考え方を示していきます。
治癒経過を阻害する要因:②運動連鎖
T:さて、その他の治癒経過を阻害する要因として、「運動連鎖」を考えてみましょうか。何か思いつきますか?
S:「運動連鎖」と言えば、理学療法士としてアライメントにだけは気をつけたいので、教科書的によくあるのは。。。(図4)。
①足底の内側縦アーチの低下
↓
②距骨下関節の過剰回内
↓
③下腿の内旋
↓
④膝関節の外反(=knee in)
↓
⑤股関節の内旋
↓
⑥腸脛靭帯の張力の増強
例の場合だと、腸脛靭帯にかかってくる強い張力ストレスは、適度なスポンジ効果も期待できず、「抵抗力」も下がりますので、局所的にオーバーワークになり、結果、ランナー膝(腸脛靭帯炎)が発症していまう。。。
こんなケースはどうでしょう?
なお、つま先が「Toe-in」するときと、「Toe-out」するときでストレスが変わってきます。膝の位置は同じ内側に入って(Knee-in)いると仮定すると、「Toe-out」として下腿が内旋ではなく、外旋すると、膝の構造上ACL(前十字靭帯)や鵞足(がそく:縫工筋、薄筋、半腱様筋の3つの腱が集中した部位から脛骨の腱付着部まで)に対してもストレスがかかってきます。
T:おっ、よく勉強しているね。さて、説明してくれたケースは、代償の代償がアライメントを崩してしまう、運動連鎖の話ですね。
一般に人間は、地球の重力下で姿勢/動作を繰り返している限り、重心の位置が常に一定ではなく変動することはわかりますか?
そこに加えて、外部/内部要因によって「非対称の姿勢/動作」の連続で日常は成り立っています。そのような条件下で局所的な「負荷」は一定であると思いますか?
S:「負荷」は一定ではない⁈
T:その通りです。「負荷」が一定ではないので、刺激が一定ではないのですから、「刺激-休息-栄養」のサイクルで強くなるアミノ酸合成などの適応にも差が出てきます。
結局、局所への「負荷」が一定でない結果、「抵抗力」も一定ではなくなります。だから、「疲労して免疫力が下がり、その結果、風邪を引く」と同じように、ただし、身体各所で違った「抵抗力」に対して、局所的に片側だけ、時にその限界を超えて組織を損傷してしまうことも出てきます。厄介なことは・・・。
S:アライメントの崩れ!
T:「アライメントの崩れ」なんですが、アライメントの崩れは関節由来だけではないんです。
筋由来では、たとえば筋収縮力や柔軟性の低下による姿勢/動作の変化(=アライメントの崩れ)や、もっと細かく考察すると、主動筋と拮抗筋との兼ね合いで筋出力のアンバランスも動的なアライメントを崩します。
神経-筋で言えば、神経系由来でそもそもアライメントが崩れていることが自覚できない、あるいは関節動作の角度変位や腱/筋への張力がどれくらいなのかという、「位置情報」や「感覚情報」を脳に集める情報自体が間違っていれば、脳から収縮するタイミングや拮抗筋などとの調整を同時にしながら収縮する筋肉が正確に実行することは不可能です。
S:アライメントの崩れは < 関節系 > と < 筋系 > と < 神経系 > 由来と原因もいろいろで、姿勢と動作を完遂させるために代償し、崩壊した運動連鎖を引き起こす…。
T:はい。そして治療には「間接的な」アプローチ戦略と、「直接的な」アプローチ戦略があります。「直接的な」アプローチ戦略としては、以下のことが考えられます。
①間違った効率の悪い運動連鎖を「修正」
②間違った効率の悪い運動連鎖で生じる局所への負荷に対して、耐えうる「抵抗力」をつける
「間接的な」アプローチ戦略としては、以下のことが考えられます。
①局所にかかる物理的なストレスを減らす。
→各関節可動域の改善、周囲の硬結や組織間/組織内癒着をリリース・・・etc
次号では、今回紹介した【抵抗力 vs 負荷】・【ライフスタイル】・【運動連鎖】に加えて、その他の《治癒経過を阻害する要因》として神経生理から「運動/感覚/自律神経の影響」、「心理社会的要因」「運動パターン」などを紹介する予定です。
まとめ
① 組織が強くなる(=抵抗力がつく)には、【適度な刺激】・【適度な休息】・【適度な栄養】の3つが揃う必要がある。
② 筋力の向上は、初期段階では大部分が神経系の適応によるもので、筋肥大は起こらない。
③ 強い骨とは【柔軟性】・【弾力性】・【可塑性】という3つの特徴が揃っており、骨タンパク質のネットワークの密度とそのネットワークに定着するカルシウムの量で決まる。
④ 筋や腱、靭帯、筋膜、関節包・・・など軟部組織の抵抗力は、コラーゲンのネットワークづくりを更新させるために、適度な休息と適度な栄養とで強化することができる。
⑤ 日々の生活習慣が日常の負荷量を決め、そのライフスタイルが治癒経過を阻害する要因となり得る。
⑥ 運動連鎖やアライメントにより、局所一箇所に物理的なストレスが集中すれば障害/外傷を生じさせるリスクとなり得る。原因は【関節】・【筋】・【神経】由来のものと、複数あり得る。
※なお、この文章は編集部の許可を得て掲載しております。
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