頚椎ヘルニアの命に関わるサイン | 日本オランダ徒手療法協会

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頚椎ヘルニアの命に関わるサイン

2021.04.30

from 橋本 祐一 @自宅デスクより

 

交通事故にあったことってありますか?

 

私は以前バイクに乗っていたんですけど、1度激しい事故を体験したことがあったんです。その時、命の危険を感じて、実際に起こったことが全てがスローモーションになった記憶があるんですよね。

 

事故にあった後の事情聴取に対しても、細かく鮮明に覚えていたので、警察官の方からも感心されるくらい物事を伝えることができていたんです。

 

何故スローモーションになるのか気になって調べたんですけど、千葉大学文学部認知心理学研究室の一川誠教授及び千葉大学文学部の卒業生の小林美沙らが研究されていたんですよね。

 

その内容というのが、日本心理学会の国際誌「ジャパニーズ・サイコロジカル・リサーチ」に紹介されています。

 

『2016年 心理学と社会―こころの不思議を解き明かす― 時間の心理学:感情が視覚の時間精度に及ぼす影響』

 

刃物や拳銃を突き付けられたり、人が燃えているといった、恐怖と不快を感じるカラー画像を使用し、楽しさを排除した条件下で実施し、画像観察で引き起こされた感情や印象の強度と、時間精度や感じられる時間の長さとの関係を調べたんだそうです。

 

1,視覚の時間精度を計る実験

 各画像を1秒間提示した後、10〜60ミリ秒の範囲で画像をモノクロに切替え、モノクロ画像が見えるのに必要な最短時間を測定。

 

結果:危険を感じ、強い感情覚醒反応を引き起こす画像を見ると、短い時間でもモノクロ画像への切替えに気づいた。これにより、危険な状況に陥ったときに、通常より早く視覚情報が処理される可能性があることがわかった。 

 

2,感じられる時間の長さを測る実験

 0.4〜1.6秒の範囲で各画像を提示し、1秒間の長さに感じられるのに必要な時間を測定。

 

結果:危険を感じさせる画像の見えている時間は実際より長く感じられることが確認された。

 

画像観察で生じる感情反応や印象が視覚の時間精度(※時間精度とは:短時間に処理できる能力)や感じられる時間の長さに及ぼす影響を調べ、その結果、危険を感じた瞬間に物事がスローモーションに見えるという現象が実際に生じることが確認された。 

 

映画のスローモーションのように感じられた、あの実体験は、本当だったんだ!!と感心しちゃったんです。

 

それと同時に、この研究成果によって事故にあった時にこの時間を利用できたら助かる命が増えていくかもしれない研究なのだと感じたんですよね。

 

交通事故っていうと以前、海外で交通事故にあったバトミントン選手の桃田賢斗選手が記憶に新しいと思いますが、首のむち打ち症状や頚椎捻挫などなどリハビリする事があると思います。

 

ですが、経過も順調ですぐによくなる人もいるのですが、なかなかよくならない方もいると思うんです。

 

自分自身も外来で診させてもらう事があるんですけど、そんな中でも難渋した方のお話を今回はさせていただこうと思います。

 

交通事故後の頚椎ヘルニアの患者さん

自転車と車での交通事故後にて右の首の痛みと腕、特に小指側にしびれがある患者さんを他病院から紹介があり担当したんです。

 

診断名は頚椎ヘルニア。事故後すぐはそこまで痛みと痺れはあまりなかったみたいなんですけど、だんだんと強まっていって、今は力が入りにくい感じもあるとのこと。

 

主症状は痛みと痺れであるが、特に症状を訴える場面が

・自転車に乗っている時

・懸垂をしている時

・寝ていて枕元のものを取ろうとする時

 

事故後に安静にしていたことで筋肉量が減少して左右差が出ており、可動域には問題はさほどないものの肩関節挙上時に頚部痛があるためアウター優位の動作で代償が起きていたんですよね。

 

また、今回の患者さんは趣味でベストボディジャパンに参加していて3ヶ月後に大会があるから鍛えていたらしく、ほぼ毎日ジムに通い約2時間のトレーニングをこなしていたんです。

 

診断としても頚椎ヘルニアとあり、その影響もあると思いますが、それよりも大会が迫っておりその焦りから痛みを多少伴いながら上半身をメインにトレーニングをしているとのことで、負荷設定がうまくいっていないと判断したんですよね。

 

その日のリハビリについては、頚部のリリース、安定性を伴った運動指導、頚部、肩甲帯のストレッチ指導、カフトレーニングの指導をして、トレーニングの負荷の軽減も指導したんです。

 

次のリハビリに来られた際には、険しい表情。汗

 

日に日に痛みが強くなっているとのこと。

 

ん?何で?

 

筋肉を落としたくない焦りはあるが、トレーニング負荷はコントロールはしていたんですよね。

 

むしろ、力も徐々に入りにくくなっており、ずっと痛みが走るわけではなく間欠的に痛みが走るみたいなんです。

 

ヘルニアによって症状が悪化しているのか??

 

問診のしたつもりが大誤算!!

改めて問診をし直して、情報を集めたんですよね。

 

そもそもの事故の状況は他病院の紹介状にも記載されていて、『路地の交差点に侵入時、左から車と衝突。』と確認してはいたので、初回時の問診をした際には、詳しく聞いておらず、問診を進めてしまっていたんです。

 

改めて状況を聞き直すと、

 

『左から直進してきた車とぶつかった際、自転車を倒れないように腕で踏ん張ったんですけど、ハンドルも左側にひどく曲がって右腕が伸ばされるような形で、右のほうに車に引きづられたんです。』

 

この状況は頚椎神経下位の引き抜き損傷も疑わなければいけないんじゃ!?

 

すぐに同じ状況下の姿勢を取ってもらうと痛みがひどく出るじゃないか!!

 

それに懸垂をしている時や寝ていて枕元のものを取ろうとする時など少し似た状況下で症状も増悪していたので、リハビリを中止しDrへ報告したんです。

 

結果は、引き抜き損傷で下位型と診断。手術のできる病院へ紹介されたんですよね。

 

先入観からくる落とし穴

なぜ症状が悪化しているのか?ここで、私が誤った判断をしていたです。

 

そもそも、リハビリをする対象なのかどうかです!!

 

当たり前の事なんですが、診断名がヘルニアだからと決めつけてリハビリしていた事が1番の原因なんです!

 

問診も対処療法もヘルニアだろうと決めつけて進めていたため、そりゃよくなるわけがないですよね。

 

今回は交通事故で外傷での話だったんですけど、痛くなった際にきっかけがある場合などは、まず骨折などの筋骨格系の重篤な病変や、筋骨格系ではない潜在的に深刻な病変を示唆するレッドフラッグを確認しなければならないですよね。

 

そのほかにもレッドフラッグ を例に挙げると、

・病理学的骨折(骨粗鬆症やステロイド剤の使用による骨量の減少によって起こったもの)

・腫瘍(癌の病歴や原因不明な体重減少)

・全身炎症疾患(強直性脊椎炎、関節リウマチ)

など、まだたくさんありますよね。

 

自分のレッドフラッグの選択肢を視野に入れていなかったことが、症状を悪化させていたんだとすごく反省した症例だったんです。

 

頚椎の疾患では、今回のようなリハビリの対象にならないことや場合によっては、生命維持に大切な呼吸器に関わる場所の損傷であったり、椎骨動脈の損傷など命に関わるリスクがあるため、それらを視野に入れて介入していく必要があるんです。

 

自分と同じような失敗をしないように、『先入観』や『決めつけ』の情報収集は禁物ですよ!

 

P.S.

今回紹介した患者さんも事故の場面でスローモーションになって事故の状況を鮮明に覚えていたんです。その話に花が咲いてしまって話が盛り上がっちゃったんですけど、世間話のその言葉一つ一つに臨床のヒントが隠されているので聞き逃さないように!

 


この記事を書いた人

橋本祐一

福岡県在住の理学療法士。【JADMT公認】オランダ準徒手療法士。四肢コース・福岡校講師研修中。総合病院、整形外科クリニックを経験。普段は、主に一般の整形疾患からスポーツ障害の中学生・高校生などの治療を行なっている。休日に息子と戯れ合う時は、全力で遊ぶ一児の父。