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肉離れの再発を防ぐリハビリテーションの組み立て方②
2017.09.08こんにちは。日本オランダ徒手療法協会の木内です。
前回に続き、肉離れを防ぐリハビリテーションの組み立て方の第2弾です!
皆さんは普段の臨床で、個人や競技に応じたリハビリテーションを提供できていますか?
ハムストリングの肉離れでは、ポジションやスポーツの種目によっても局所に加わるストレスが異なるため、再発を防ぐためには、個々に/競技に合わせたリハビリプログラムを組み立てる必要があります。
そもそも肉離れの再発とは、局所の抵抗力が十分に戻りきっていない状態で、練習/試合に戻ってしまい発症すると考えられるため、リハビリテーションに携わる方の責任は大きいです。
今回は、ハムストリングの肉離れ発生を3年間で『1件』に抑えた、土屋 潤二氏が実際に行った驚異的なトレーニングの中身をお伝えします。
月刊スポーツメディスン No.191 6月号 2017年
連載 運動を制限する要素の考え方①
-“スポーツ場面”を題材に運動を制限する要素を組織レベルから考える-
再発=早すぎる復帰
・手術療法 1.7〜2.8%
・保存療法 10.7〜20.8%
T:このアキレス腱断裂の差はどういうことでしょう? 保存療法が著しく成績が悪いですよね。
S:縫合手術によって強度を上げるだけでなく、もしかしたら、亜急性期やリモデリング期に、保存療法と比べると、断裂した腱が再び癒着しながら繊維を張り巡らせ構造的に強く編み込まれていくからですかね?
T:割と初期の頃、断裂したアキレス腱は固定と言われていても多少ズレてしまいがちですが、縫合手術をして入れば、その断裂した腱の断面がズレることは少ないでしょうから、早く結合をしていくかもしれませんね。
S:なるほど。
T:またさらに、アキレス腱に伸長ストレスをかけるリハビリ初期〜中期で、保存療法の場合には、腱局所の「抵抗力」がどれくらいか予測しづらいので、リハ中に一時的なオーバーワークが生じて炎症を誘発するリスクが高そうなことが予想できます。そしてその結果、炎症反応として局所の循環が悪くなり(腫脹)、栄養と酸素とが十分でなくなり、組織を強くするどころか、コラーゲン・エラスチン・ヒアルロン酸といった成分を作り出す“繊維芽細胞”の働きがなくなり、アキレス腱は一時的に脆くなってしまいます。
S:理論的にはわかるんですが、二関節筋の”テコ”の影響を大きく受けるので、微妙な負荷コントロールが難しいですね。
T:いずれにしても、、アキレス腱やハムの“抵抗力”が、復帰後に、伸長される実際のスポーツ動作での力に抗えないとき、組織が再破壊されます。
S:そういうことですね。
T:何が問題なのでしょうか?
S:スポーツ場面で実際に局所が”伸長される力”に対して、まだ、組織が構造的に破壊されずに耐えられる”抵抗力”が十分でないにも関わらずに、早期に復帰してしまったこと・・・ですか?
T:そのとうり! それでは、なんで復帰させる前に、そこまで局所を鍛えないんですか?
S:そうですよね・・・。患者さんには「すいません」というしかありません。
“3シーズン(3年間)で肉離れ1件”を生み出した驚異的なトレーニング?!
T:ここでちょっと視点を変えますね。“抵抗力”についてのアプローチ手段/トレーニング手段の一つを紹介します。
S:自分にはとくにトレーニング手段について持っている“引き出し”が少ないので、それを増やすためにも是非教えてください。
T:わかりました。さて、わたしがサッカーに携わっているのは知っていますよね?
S:はい。
T:現在、サッカーのJ3に所属している「SC相模原」のトレーナーとして、少し前に縁があり、フィジカルトレーニングの指導をさせてもらっていました。ちょうど地域リーグである「関東サッカーリーグ1部」から「日本フットボールリーグ(JFL)」に昇格、「日本プロサッカーリーグJ3リーグ」に参加が承認された2012〜2014年(3シーズン)の話です。
S:そういったアスリートの話、興味あります。
T:理解ある監督でしたので、オランダの時にやっていたものを持ち込みました。それは、シーズン中であっても全身の“レジスタンストレーニング”を続けつつ、下記のスプリントトレーニングをしただけです。やり方は、「3つ」のスプリントトレーニングを2週毎に変えるやり方(合計6週間)で、この6週間サイクルを徐々に負荷を挙げながらシーズン中に繰り返して行く方法です。負荷を増やすにしても、ほんのわずかです。
【1〜2週目】
30m加速走×6本 ※100%は出さない
【3〜4週目】
15mインターバル走×10本(2セット)※インターバル:30秒、セット間休息:2分
【5〜6週目】
ダッシュ5m×6本、15m×4本、25m×2本
【7週目】
30m加速走×7本
【8〜9週目】
15mインターバル走×11本(2セット)※インターバル:30秒、セット間休息:2分
【10週目】
ダッシュ5m×7本、15m×4本、25m×2本
S:これだけですか?
T:レジスタント(抵抗)トレーニングということで、メニューや負荷を変えながら、ハムストリングの強化はしていました。ストレッチは、メディカルスタッフとの連携で腸腰筋と大腿四頭筋、ハムストリングの硬さをチェックしてもらい、おもに股関節屈曲/伸展に対しては、いつも可動域制限がない状態にすることに注意を注いでいました。
肉離れを引き起こす複数のリスク要因
T:ここにヒントがあります。ハムストリングの肉離れを引き起こすリスク要因を知っていますか?
S:えっと、一番最初に浮かんできたんですが、「H/Q比」と言われるハムストリングと大腿四頭筋の筋力比
T:ブブー。最新の研究では、「H/Q比」とハム肉離れとが関係しない・・・という研究結果も出てきている状況です。ですが、大腿四頭筋の筋力が強いとハムの肉離れをする確率が上がります。
S:へ〜。間違って思い込んでいました。
T:結構最近まで「H/Q比」とハムストリングの肉離れは関係していると強く信じられていました。
S:それなら、左右のハムストリングの筋力差は、リスクになり得ます。また、ハムストリングのエキセントリックなトレーニングをすると、予防につながるから、エキセントリックなトレーニングをしないと再受傷するリスクが上がります。
T:左右ハムの筋力差やエキセントリックなトレーニングなどは有名なところですね。そういったいくつかあるエビデンス情報を図2と図3にまとめてみました。
(図2 ハムストリングの肉離れのリスク要因)
(図3 ハムストリングの肉離れ予防のためのアプローチ方法)
動作はエビデンスでは説明できない!
T:研究で確からしい結果以外で注意することは何かありますか?
S:え? エビデンスに沿っていればよいのではないんですか?
T:矛盾しているのだけれど、研究は条件を揃えたら誰でも再現できるょうに測定や実験自体の条件を整備して、その上で生じた現象の相関や違いを統計論的に論じています。これには欠点があり、動作などの個性があるとくにトップアスリートの姿勢動作に関しては、前述した、研究のための条件を整える(これを「実験計画」といいます)ことは不可能なことが沢山あります。
S:“動き”はエビデンスを取りづらいですね。
T:だから経験則の傾向で言うと、実は、いくつかのスポーツ種目でわかっていることがあります。その一つには、ポジション別にハムストリングの肉離れの再発率が違うことがあげられます。つまり、そのポジションに特有のプレースタイルや動作によって受傷するリスクに違いが現れていることになります。
S:簡単に想像できるのは、ゴールキーパーとサイドバックとかであれば、全くプレー動作は違ってきますよね。
T:ランニングフォームで傾向として言われているのが、スタートダッシュとスピードが乗った後の中間疾走です。スタート直後の加速していくダッシュの局面では、下腿をどちらかというとプッシュするような形で、ピストン運動を繰り返しますので、二関節筋のハムストリングへの伸長ストレスはそれほどでもありません。一方で、加速後は、足が後方に流れ(股関節の伸展が大きくなり)、その後方に流れた脚を前方に膝をたたんで運んだ後に地面を強く蹴る準備として大腿を地面に向けて振り落としはじめて(股関節屈曲筋の収縮)、少し遅れて膝を伸ばしはじめ、地面を足部が捉える直前に伸長されながら筋収縮する(=エキセントリックな筋収縮)伸長される力がMaxを記録します。この瞬間に肉離れは起こると考えられています。
加速局面のダッシュ<中間疾走(最高速度到達後のスピード維持のスプリント局面)
次回に続く・・・。
※なお、この文章は編集部の許可を得て掲載しております。