“重力”が組織の強度に与える影響 | 日本オランダ徒手療法協会

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“重力”が組織の強度に与える影響

2017.07.12

 

組織を強くするために必要な条件。

 

組織を強くするためには下記の3つのポイントが重要です。

 

①適度な刺激

②適度な休息

③十分な栄養

 

その中でも①「適度な刺激」について考えてみたいと思います。

適度な刺激というと、運動やトレーニングを真っ先に思い浮かべますが、、、。

重力という目に見えない”刺激”も忘れてはいけません。

 

今回は宇宙飛行士をモデルに宇宙空間の無重力環境に長期滞在した際に

なぜ、組織の強度が保てなくなってしまうのか? という組織が弱くなってしまう例を基に

もう一度、臨床において【 組織を強くする 】というテーマを考えてみたいと思います。

 

 


 

月刊スポーツメディスン No.189 4月号 2017年

連載 実践力を上げるための「根本原因と推察しうる要因や理論の使い方」①

-「刺激」×「休息」×「栄養」と局所循環とを臨床ではどう考えるか?-

 

 

T:土屋潤二、S:生徒で示し、対話形式でオランダ徒手療法の考え方を示していきます。

 

前号の復習:「刺激」×「休息」×「栄養」で強くなる・・・の実際

 

T:さて間が空きましたが、前号(186号)の復習です。

 

S:お願いします。

 

T:早速ですが、身体が作られることについて考えてみます。身体局所は以下の3つの条件が揃ってくると細胞の活性を認め、組織が構造的に強くなっていきます。

具体的に実際は、繊維芽細胞や骨芽細胞、筋芽細胞などが活発に活動して、たとえば繊維芽細胞はコラーゲン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、エラスチンなどを多量に作り出し、組織がこの修復作用により構造的に強くなっていきますね。

 

身体への「適度な刺激」

・短すぎ/長すぎない「適度な休息」

・そのタイミングで「十分な栄養」の供給/循環

 

S:うわ、前回までにそんな難しい用語は聞いたことはありません。

 

T:「組織の修復」についてなどを調べると詳しくわかると思います。(図1を参照)

 

 

<図1>超回復のイメージ

 

S:構造的に強くなる=物理的な抵抗力が強くなる・・・ことは、先生からお話を聞いてイメージはじめてできました。

 

T:組織が強くなるのに必要な条件である「適度な刺激」は具体的にはどんな刺激を指すのかな?

 

S:筋力を向上させるのには、”抵抗運動”をさせればいいし、骨は”振動”させることが大切になってくるのは理解できるのだけれど、その他の軟部組織は何をすれば良いのだろう?

 

T:机上の空論に終わらせずに実践力をつけるために、考えてみましょう。

筋肉の機能は主に骨を動かすことです。靭帯や関節包の機能は?

 

S:支持組織ですので、アライメントが崩れないように支えることですか?
T:そう、そのとうり! 実際にはどんな力が働いていますか?

 

S:えっと、正常な位置から骨がずれそうになったり、もしくは、関節の咬み合わせから骨が外れそうになることを防ぐから、引っ張られる力?

 

T:いいですね~。それでは軟骨や椎間板、半月板などの軟部組織でも比較的硬く、骨に挟まれている組織の機能はなんですか?

 

S:先生、「骨に挟まれている」なんてヒントをありがとうございます!

軟骨や椎間板、半月板の機能は、骨同士がぶつかる時のクッション/緩衝材になったり、関節運動を滑らかにすることです。

 

T:そう、そのとうりです! 軟部組織には大きく”引っ張られる力””ぶつかる力”のいずれか2つの力しか働きません。

(図2を参照)

関節まわりのいずれかの軟部組織は常に、ある特定のこの”引っ張られる”、もしくは、ぶつかる力=刺激が働き、その刺激に応じて必要な抵抗力が備わった密度や太さの構造を備えた軟部組織に適応していきます。

 

<図2> “引っ張られる力”と“ぶつかる力”のイメージ

 

 

S:短すぎず、長すぎない「適度な休息」があれば・・・です!

 

T:そうそう、時間の概念を忘れないで下さいね。

もし宇宙の無重力環境に身をおけば、途端にその環境から受ける身体への”引っ張られたり”か”ぶつかったり”の「刺激」が地球上にいるよりも激減しますよね。

そのままでは、運動器系の組織に関しては、その環境に合わせて筋芽細胞や繊維芽細胞などの活動が、地球上のそれより著しく低下する=組織が強くなる機会は激減して、構造的に萎縮して、脆く適応していきます。

宇宙飛行士が地球に帰還して歩けずに、地上スタッフに抱えられるようにして写真を撮られるのをみたことがありませんか?

 

S:あります、あります! 宇宙に飛ぶ前にはもの凄いトレーニングをしているはずなのに、何ヶ月かの滞在で別人の印象です。日常生活を取り戻すのに、やはりリハビリをするのでしょうか?

 

T:当然、一から鍛え直しです。宇宙空間でも近年、かなりトレーニング方法が進化して宇宙飛行士の下肢の筋力は、トレーニング機器の開発により足部の周囲筋も含めて維持することが可能となりました。

ですが、帰還した宇宙飛行士は転びやすいんです!

 

S:なぜですか?

 

T:無重力空間での長期滞在による「歩行特有の荷重感覚の欠如」が原因ではないかと推測されています。2010年以降、固有受容器−小脳の姿勢・動作を司る運動系を対象に、色々な研究が行われているよ。

 

S:へー。それが解明されていくると、筋肉強化をとおした姿勢・動作の再獲得ばかりをやっていますが、その運動器のリハビリの方法も変わるかもしれませんね。

 

T:その他には、骨量の急激な減少で骨折や尿路結石のリスクが高くなることが挙げられ、回復には滞在期間のほぼ倍の期間が必要であると言われています。

 

S:”重力”という目に見えない刺激は普段、全く意識していませんが、生体にそれ相応の”刺激”を入れているんですね。

 

T:さあ、宇宙飛行士の話は、それぐらいにして、臨床の場面でどのようにこれまでの知見を応用するのか、ケースを考えてみましょう!

 

続く・・・。

※なお、この文章は編集部の許可を得て掲載しております。

月刊スポーツメディスンについては、下記のサイトを参照ください。

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この記事を書いた人

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木内 隆太

6年の鍼灸接骨院を経て、スポーツ現場に活動のフィールドを求め「DMTスクール」の門を叩く。 『再発予防やパフォーマンスアップとを通じて臨床とスポーツ現場を繋ぐこと』を目標に 日本オランダ徒手療法協会で代表をしている土屋氏に師事。オランダ徒手療法を学ぶ。 サッカーJ2松本山雅FCユースアカデミーフィジカルコーチ、元Vonds市原FCトレーナー兼フィジカルコーチアシスタント 長野出身 <資格/ライセンス> 柔道整復師、日本サッカー協会指導者ライセンス「公認B級コーチ」、日本オランダ徒手療法協会「準徒手療法士」