プロトコル通りに潜む罠 | 日本オランダ徒手療法協会

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プロトコル通りに潜む罠

2018.12.07

From:長島 将太

 

@ 姪浜のスタバより

 

「パパ、見ててねー」

 

「ここから飛べるようになったんだよ!」

 

振り返ると1m弱程ある遊具から息子が飛ぼうとしてたんだ。

 

「これは、ヤバい!!」と思ってすぐに駆けつけようとしたんだけど万事休す。

 

「トォォォオーーー!」の掛け声と共に飛び立つ息子。

 

「、、、、」

 

「、、、、」

 

「ほらー!凄いでしょーー!!」と仮面ライダーばりの着地を決めた息子。

 

私の不安なんてつゆ知らず、鼻高々に満面の笑みでこちらをみていたんですね。こちらは怪我すると思い肝が冷えてあまり笑えなかった自分(苦笑)

 

私は職業柄、どんな事をすると身体に負荷がかかり、怪我をするのかを知っているだけに、息子の取った行動は非常に恐ろしかったんですね。だって、自分の背丈以上の高所から飛んで着地した時の膝への負担って自分の体重の12〜15倍なんですよ。

 

だから、絶対怪我をするってヒヤヒヤしましたね。でも、息子の膝は耐えた(笑)

もう心配を通り越して、息子の成長に関心するしかなかった。

 

結果的に着地の衝撃に対して4歳の息子の「抵抗力」が勝った瞬間だったんですね!!

 

このように、危ないなとか怪我をするんじゃないかなと心配して控えていた動作をあっさりクリアされる事って経験ありませんか? 予想以上に患者さんの身体機能が高かったたり、少し慎重になりすぎて取り越し苦労だったなんて出来事。

 

今回、紹介するのは復帰時期を急ぐあまり再発してしまった私の失敗談を共有しますね。

 

#プロトコル通りに進む陸上選手

当時、私が担当していた患者さんは中距離走の陸上選手だったんですね。練習中、膝を捻ったらしく「半月板損傷」で入院してきたんです。

 

その女子選手は縫合術をされたのですが、経過も順調で入院中も様々なトレーニングをしっかりこなし退院されていきました。その後の外来通院も順調でプロトコールも遅れることなく、着実に復帰プランに乗っていたんですね。

 

ただ一つ気がかりな事を残して、、、それは「順調すぎること」だったんです。

 

半月板の縫合術では、よくある事なのですが縫合部に負担がかからないように一時的に体重を乗せない期間があるんですよね。その期間を過ぎてから少しずつ体重を乗せていく。

 

そして、その荷重量を増やし、いよいよ全体重を乗せていく時期に膝の腫れをよく経験するのですが、その選手は特にその腫れもほとんどなく、予定通りにジョギングが開始されていったという経緯があるんです。

 

そして、いよいよジョグからランニングの許可が出ました。この頃の自分はプロトコールは予定通りに進ませる事が大事だと思っていたので、順調に進んでいることは非常に嬉しかったんですね。

 

随分スポーツ復帰までのプランニングも上手くなってきたかな〜と少し自信をつけていっていた頃だったので、少し過信していたんでしょうね(苦笑)

 

少しの違和感を感じつつも、プラン通りに進む選手だったんですが、事はそんなに甘くなかった。。。

 

手術から3ヶ月半ばの頃。

外来の待合を通ると、見慣れた顔の選手が車椅子に座っていたんです。

 

もしかして、、、

「再断裂」という文字が頭に浮かびました。

 

#再断裂を招いた原因、、、それは?

よくよく話を聞くと、体育の授業中に馬跳びがあったらしく、その馬跳びの着地の時に「グキッ」ってなったようで、それから膝が伸ばせなくなって受診したとのこと。いわゆる半月板のロッキング現象ですね。

 

まさに再発です。

 

何が悪かったのか悩みました。

 

陸上競技中ではなかったにしても、なぜ馬跳びで再断裂を起こしてしまったのか?

そこには「順調すぎた事」に落とし穴が潜んでいたんです。

 

プロトコルは動作時に痛みが出たり、関節の腫れが出ていたりすれば遅らせたりするのですが、「痛み」や「腫れ」の症状がなければ、こちらが意図して遅らせない限りどんどん進むんですね。

 

この頃の私はプロトコルに捉われすぎて、何を基準にプロトコルを進めるべきか?遅らせるべきか?の判断材料がなかったのも一つの要因でした。

 

今回の再断裂を招いた結果は大きく3つ!

 

①動的な膝のブレを見逃していた事

②膝を安定させる為の筋収縮タイミング(いわゆる同時収縮)

③膝の耐えれる力を十分にトレーニング出来ていなかった事

 

#何を基準にプロコトルを進ませるのか?

確かに医師の指示は非常に大事です。

 

ですが、実際選手の動きを見て、問題があるか無いかを判断できるのは私たち治療家です。

そしてプロトコルを進ませる、遅らせるなどの判断一つで選手の競技復帰に関わってくるのです。

 

今回の私のように、プロトコルの進捗管理をする基準が無かったあまり、膝の耐えれる力を見極めきれず、プロトコル通りに進んだ結果が「再断裂」だったんです。

 

では、何を基準にすればいいのか?

 

それは、、、

①どんな状況下においても膝はブレていないか?

 例えば、その場の片足スクワット動作でブレていなくても、ステップ動作でブレていれば

 それだけ関節周りには潰されるストレスや伸ばされるストレスが生じます。この状況にも

 関わらず、さらにジャンプなどの高負荷の運動になれば、より大きな負担が生じる事は想

 像できると思います。

 

②どんな負荷でも膝は耐えれているか?

 どんな組織にも耐えれる力があります。この耐えれる力を超えた時、組織には損傷を生じ

 ます。今回の場合、馬跳びのようにジャンプからの着地には膝に対して体重の10倍近い負

 荷が生じた結果、膝のブレが修正されていなかった選手の半月板は再断裂を起こしてし

 まったんですね。一回の外力が組織の耐えれる力を超えてしまった結果です。

 

上記にあげたことが全てではないのですが、少なからず私たちがプロトコルを進める上で判断に必要な視点であるという事を痛感させられたケースでした。選手の競技復帰のためには、復帰する競技には、どこまでの負荷がかかるのか?を想定して、入念なトレーニング計画と、明確な判断基準が必要です。

 

もし、判断に迷いそうになったら上記の基準を参考にしてみては如何でしょうか?

 

PS

息子の膝の抵抗力はどうも保育園の跳び箱で鍛錬されているらしい(汗)

やはり日頃のトレーニングの賜物のようです!!


この記事を書いた人

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長島 将太

理学療法士。南川整形外科病院(http://minamikawa-hp.com/about/rehabilitation.html )JADMT認定 徒手療法士。プロの選手からインカレ・インターハイ選手など数多くトップアスリートを診てきている。また、オランダ徒手療法ではチーフ講師として本物の医療を伝えるために後進の育成にも余念のない。サーフィンをこよなく愛する2児の父。