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運動パターンと筋の収縮様式
2017.11.07こんにちは、日本オランダ徒手療法協会の木内です。
“運動パターン”と聞いて皆さんはどんなことを想像しますか?
今回は、【筋の収縮様式】にスポットを当て、それぞれの特徴や 違いを理解することで、
普段聞き慣れない言葉【運動パターン】について解説していきます。
【筋の収縮様式】には下記の4つがあります。
①ゆっくりな等尺性収縮
②速い等尺性収縮
③短縮性収縮
④伸張性収縮
スポーツ生理学/スポーツバイオメカニクス/コーチング法/トレーニング学/スポーツ運動学…など、
高度な分析をもとに、【効率的な姿勢/動作を指導するスペシャリスト】を養成しているDMTマニュプレーションスクール:徒手療法士コースにて、講師を務める当協会代表理事:土屋潤二氏による記事の紹介です。
月刊スポーツメディスン No.192 7月号 2017年
連載 運動を制限する要素の考え方②
-姿勢や動作を制御しているときに何が起こっているのか-
運動パターン?
S:独特の筋の使い方?
T:そう、「運動パターン」と言っても良いです。膝を安定させるには、関係している全ての筋肉を同時に“共収縮”させることが求められます。ですが、ある関節を屈曲や進展でも動かすときに、今度は、反対に“共収縮”は邪魔になります。
S:それはそうですね。主導筋が関節の動きを導くときに、拮抗筋はできる限り弛緩しているほうが効率はよいのは理解できます。
T:その通りです! 効率よく運動するには、ある意味、局所を弛緩できるかどうかがKeyになっていますよね。「ベテランの選手の動きには無駄がない」の表現のように、主導筋と拮抗筋とのバランスに加え、その正に調和した無駄のない連続した収縮からの弛緩あるいは、弛緩からの収縮ができる「運動パターン」!
S:先生、その「運動パターン」を身につけさえすればカンタンですね。
T:理論上はそうなんですが、それが非常に難しいんです。多くの人が血のにじむような苦労をしています。
S:えっ、正しい動きを繰り返せばいいんですよね?
T:・・・え?
関節運動時の感覚・運動神経
T:それでは、Sさんの頭の中には「運動神経−筋ユニットしかないようですから、感覚神経も含めて考えてみましょうか?
S:よろしくお願い致します。え、感覚神経?
T:そう、感覚神経です。腱が引っ張られたり、関節が動くのを察知したり、三半規管で平衡感覚を捉えたり、耳石器で加速度や重力を捉えたり、耳石器で加速度や重力を捉えたり・・・。とにかく動く前に、動くための情報として、体の位置や各関節の曲がり具合、筋の張り具合・・などのいろいろな情報を集めたうえで、動きを決定して、動きます。
S:それはそうですね。無意識に動いているけれど、情報を集めているんですね。
T:以下に、これから筋の収縮様式(アイソメトリックス/コンセントリック/エキセントリック)ごとに、感覚受容器の神経の動きと合わせて、主導筋および拮抗筋の運動神経がどう働いているかを、実際はものすごく複雑なので、単純化したモデルにして一緒に考えてみます。具体的には、筋紡錘や腱紡錘、関節の動きを感知する神経・・・などがどのように働くのか。
『単純な「単関節」で「主導筋」と「拮抗筋」とで動くモデル』を取り上げます(図3)。
<図3 膝関節の屈伸時における主導筋と拮抗筋>
ゆっくりなアイソメトリックでの収縮時
T:まずはじめにアイソメトリック(=等尺性収縮)ということで、主導筋の筋肉は収縮するのですが、関節運動としては屈曲も伸展もせずに動かない状態です。(図4)。
<図4 ゆっくりなアイソメトリックでの収縮時モデル>
S:あれ、主導筋の筋紡錘は働かないんですか?
T:筋紡錘や腱紡錘は、引っ張られて長さが伸ばされたときに、この神経繊維内を活動電位が伝わっていきます。まあ、簡単に表現すると電気が走ります。アイソメトリックの場合、どうでしょうか?筋の長さは変化しているでしょうか?
S:厳密に言うと、関節は動かないとしても緩んでいる筋肉が緊張するときに少しだけ筋腹が短くなるんじゃないですか?
T:お、よく観察しているね。
S:あ、そうか。「等尺性」という言葉とは別に、実際は、短くなっているんだから、筋紡錘の電気は生じないですね。
T:そうですね。そのときに腱は引っ張られますか?
S:筋腹の収縮のために、収縮する力が増せば増すほど、腱は引っ張られます。
T:正解です。関節は屈曲にも伸展にも変化していませんから、電気は生じませんね。筋電図のような「図4」に、以上の現象がよく現れています。
速いアイソメトリックでの収縮時
T:次に、同じアイソメトリックなんですが、素早い収縮が求められる場合を考えてみましょう(図5)。
<図5 速いアイソメトリックでの収縮時モデル>
ジャンプした後の着地やランニングなどで片脚着地する場合が当てはまります。
S:え、先生!拮抗筋が働いています。
T:これなんだかわかりますか?
S:主導筋と拮抗筋とが働いているから「共収縮(=co-contraction)」ですね。
T:正解です。ヒトの体は、大きな外力が急に働いたり、ぶつかってきたりした場合に、反射で関節が動かないよう、全部の筋グループが一斉に緊張するようになっています。本当に文字どおり体を固めます。
S:それで骨折や脱臼、捻挫が防げるんですね。
T:筋活動の立ち上がりも素早く、瞬時に反応するようになっています。
コンセントリックでの収縮時
T:今度はアイソメトリックを離れ、コンセントリックを考えてみましょう(図6)。
<図6 コンセントリックでの収縮モデル>
S:あ、アイソメトリックでは反応がなかった拮抗筋の筋紡錘や関節に反応がありますね。
T:そう、コンセントリックの最大の特徴は、主導筋の筋の長さが短くなりながら関節の屈曲運動が行われるといいうこと。筋肉が短くなるのに、主導筋の腱紡錘が反応しているのは、なぜだかわかる?
S:筋腹が収縮して骨を引っ張るわけだから、主導筋全体として短くなったとしても、腱は引っ張られるから・・・ですか?
T:とても良い思考ですね。正解です。反応はしますが、電気の出力は弱いですよね。
S:あ、本当だ。
日常動作で“コンセントリック”を考えてみる
T:そして動作に応じて、関節と拮抗筋の筋紡錘が反応しています。ここで拮抗筋がもし収縮したり、拮抗筋周囲と癒着していたら、どうなりますか?
S:曲げるのが大変になるから、必要以上に、主導筋を強く収縮しないとダメになります。
T:そんなことはありますか?
S:はじめて自転車に乗るときとか、新しい動作を身につけるときに、無駄に力が入っているかも・・・。
T:そうです、スムースに目的としている伸展/屈曲をするには、拮抗筋の力が抜けている必要があるのですが、それができないんです。
S:組織間の癒着の例では、膝を痛めてクリニックに来たサッカーをやっている大学生が下肢全部がパンパンに張っていて、癒着しまくっていました!
T:組織同士の滑走が悪ければ、主導筋はより力が必要になります。ですから、一動作毎に効率が悪く、癒着していないときの収縮以上にエネルギーを使います。
S:癒着・・・キーワードになりそうですね。
エキセントリックでの収縮時
T:さて最後に、筋肉が伸ばされながら、収縮するエキセントリックの場合を考えてみましょう(図7)。
<図7 エキセントリックでの収縮モデル>
S:よろしくお願いします。
T:何が特徴ですか?
S:速いアイソメトリックに似ているのですが、主導筋のみがものすごく働いている感じです。
T:速いアイソメトリックとの違いは?
S:う〜んと、主導筋の筋紡錘が伸ばされるのと、拮抗筋の収縮がなく、筋紡錘/腱紡錘ともに伸ばされることはないこと・・・ですか?
T:よく見ていましたね! 正解です。
各動作と感覚・運動神経
T:以上の4つのモデルを見てきたけれど、何か気がつくことはありますか?
S:4つのモデルで、活動電位が出るパターンが違っていました。
T:そう、これだけ単純に絞ったモデルでそれぞれまったく違う筋収縮や神経の活動電位の違いがあるということ。それぞれを覚える必要はありませんよ(笑)。姿勢や運動を制御するのに非常に複雑な回路「=運動パターン」を身につけなくてはならないということだけを覚えてください。
S:先生、でも「運動パターン」を身につけるのには正確にやらないとダメですね。
T:あ、気がついてくれて、先生は嬉しいです。そう、「運動パターン」を身につけるのにはゴールとする姿勢や運動を意識して、本当に正確にやらないとだめなんです。見かけ上、同じ動作に見えても、体の中身は、まったく違った感覚神経が反応していたりして、それが悪い運動パターンとして身についてしまえば・・・どうなりますか?
S:ゴールとしていた姿勢動作は身につかないばかりでなく、悪い姿勢や運動が身についてしまいます。
T:それがコアトレーニングをしているのに、時に体幹を安定させられないで腰痛が治らない・・・なんていう原因にもなるんだ。
S:奥が深いですね。「姿勢や動作のカイゼン」ができる治療家になりたいんで先生、是非、その先を教えて下さい。
T:今日はここまでにして、次回、さらに先を考えて行きましょう。
まとめ
1.知識を応用するまでに掘り下げて理解したかどうかの目安として、「理路整然として人に説明できるレベル」に到達しているかどうかで確認できる。
2.治療やリハビリの究極的なゴールとして、以下2つの課題が考えられる:「治療やリハビリの課題1=局所の抵抗力を上げるために鍛えること」、「治療やリハビリの課題2=関節を安定して支持したり、力を伝えるのに効率的なアライメント通りの“姿勢”や“動作”を取り戻すこと」
3.共収縮(=同時収縮):同時に主導筋と拮抗筋とが収縮することにより、 靭帯が関節の安定化をするのを助け、関節面にかかる圧力を均等化し、関節のスティフネスの増加により、関節の安定性を向上させる。
それは、姿勢を維持することや、動作の際にアライメントを崩さないようにすることなどに好都合な収縮様式である。
4.熟練した動作では、主導筋が関節の動きを導き、その際に拮抗筋を弛緩するような「運動パターン」が感覚神経−脊髄/小脳−運動神経−運動器の一連のつながりで記憶されて、効率よく発揮される。
5.筋の収縮様式が違うだけで、体内で使われる感覚器や運動器が全く異なり、神経の伝達パターンも全く違う。
6.ヒトの体は、大きな外力が急に働いたり、ぶつかってきたりした場合に、関節が動かないよう、文字どおり体を固め、全部の筋のグループが一斉に緊張する。それは、反射としていくつもの筋グループを同時に収縮させる共収縮がはたらく。
7.スムースに目的としている伸展/屈曲をするには、拮抗筋の力が抜けている必要がある。
8.組織どうしの滑走が悪ければ、主導筋はより力が必要。そのため癒着している部位は、一動作ごとに効率が悪く、癒着していないときの収縮以上にエネルギーを必要とする。
9.「運動パターン」を身につけるのには、ゴールとする姿勢や運動を意識して、本当に正確にやる必要がある。
※なお、この文章は編集部の許可を得て掲載しております。