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炎症や痛み、硬結が体内環境に与える影響
2017.04.17<写真 引用文献>
Peter Libby.「Role of Inflammation in Atherosclerosis Associated with Rheumatoid Arthritis」
The American Journal of Medicine, Vol 121, No 10A, October 2008
意外と知っているつもりになっている、「炎症」。
しかし、現場では運動療法の負荷のコントロールをプロトコール任せにしてしまい、炎症や痛みのコントロールがきちんと管理できていないケースが多いのではないでしょうか?
炎症のメカニズムから、身体に及ぼす影響をきちんと理解するだけで、アプローチ方法の選択からリハビリ計画まで、適切に組み立てることができます!
初心に戻ったつもりで、今一度、炎症が身体に与える影響を多角的な視点から考えてみましょう。
月刊スポーツメディスン No.186 12月号 2016年
連載 細胞/組織レベルの体内環境を考えることで治癒効果を引き出す②
-治癒経過を阻害する要因ごとにアプローチを変えろ!-
以下、T:土屋潤二、S:生徒で示し、対話形式で、オランダ徒手療法の考え方を示していきます。
炎症や痛み、硬結が体内環境に与える影響
T:復習になりますが、痛みや炎症はどのような身体の変化をもたらすか…からスタートしますね。
S:よろしくお願いします。
T:はい。では、打撲や捻挫など細胞の破壊を伴う組織損傷を考えてみましょう。炎症を説明してください。
S:ゲ、いきなり…!ちょっと頑張ってみますが、携帯で調べさせてください。
T:確認することはいいことですね。ネット情報はかなりバイアスが入っていますので、本当に確からしいか、いつも疑いの目でさらに確認することが大切です。
一方で、医療情報は日々更新されていきますから増え続ける膨大な医療情報をすべて覚える必要はありません。どちらかというと、体系的な軸となるしっかりとした理論を身につけたうえで、
・「情報を見つけてくる能力」
・「集めた情報を必要な情報だけ運び出す能力」
・必要な情報で「仮説を組み立てる能力」
・「立てた仮説を検証して新たな仮説へと改善していく能力」
なんていう能力が大切で、それは情報に惑わされずに自分で考えて、試行錯誤できることになりますね。
S:えっと、“炎症”とは「外傷や熱傷などの物理的要因や、感染、アレルギー反応によって引き起こされる、発赤(redness)、熱感(heat)、腫脹(swelling)、疼痛(pain)を特徴とする症候である。これらの特徴を炎症の4徴候という。また、機能障害(loss of function)を含めて炎症の5徴候ともいう。」(ウィキペディアより)…だそうです。
T:で結局、局所はどうなっていそうですか?
S:間質液がパンパンに腫れて、神経の痛覚が敏感になっていそうです。
T:そうですね。
どんな刺激に対してでも、より痛みの神経の閾値が下がり疼痛を引き起こしやすくなり、腫れによって、痛みの物質が局所に留まりより痛みに敏感になり、組織間/内は癒着や硬結が生じ、パンパンに腫れた局所は不動になることで組織どおしの癒着が進み、滑走性が落ちた分、可動域がないところからいつもより余分に局所が引っ張られ、組織への酸素/栄養供給はなくなる。
一方で、それがさらに痛みや腫脹を呼び込み、間質液がパンパンに…という負のスパイラルが出来上がります(図4)。
S:こんな患者さん嫌ですね。
T:仕方がないですから。
対症療法として、できる限り負の連鎖を断ち切るつもりで、痛みの神経の閾値を上げて過敏な痛覚を適正化し、関節の滑り転がりの制限を解放して、滑走性を復活させた軟部組織によりスポンジ効果をだし、皮膚表面にあるリンパの流れを取り戻して腫れた局所の循環をよくし…など、
負の連鎖を断ち切るだけでなく、通常の機能を復活させる効果的なアプローチ方法を施すことで体内環境が適正化されます。
S:後は「抵抗力 vs 負荷バランス」に沿ってリハビリですね。
T:あまい(怒)!
初期に生じやすい癒着の再発
T:前号で治癒過程を阻害する要因の一つである「運動連鎖」に少し触れたけれど、覚えているかな?
S:ええ、覚えています。
下肢アライメントが崩れる例で、代償の代償が動的なアライメントを崩してしまう運動連鎖を僕が話し始めたんです。
T:そうそう。そこでは、重力下にある人間の活動では重心が一定でないことから始まり、非対称の姿勢や動作の連続により「負荷」が左右や前後で一定ではないことを説明しました。
S:もともと右利きや鞄をいつも左手で持つこと、楽な姿勢だと言っていつも左脚で立ってたり、人間の姿勢動作が左右対称であるわけがないですよね。
なので、局所の抵抗力の負荷に対する適応は、結果として「抵抗力」も左右対称/一定ではないことになりますよね?
T:このケースでは、さらに急性期で体内環境も恒常性を維持しにくく、組織損傷により「抵抗力」が落ちている状態ですので、癒着/繊維化/硬結が生じやすいです。
結果、対症療法でかなり治療をしっかりやったとしても、すぐに戻ってしまうことはよくあります。
局所にアミノ酸合成したくても材料がなくなっていたり、低い抵抗力ですので、不動やアンダーワークにより十分な“スポンジ効果”が得られずに軟部組織での水分結合が減り、硬く、短く、柔軟性がなくなっていきます。
S:「すぐ戻ってしまう!」とよくいうお客さんはこれだったんですね!
T:そう、だから柔軟性や関節の可動域を最初の1回だけよくしてもダメなんだよね。運動療法を進めるにしても、常にチェックしたいものです。
よく見る臨床では、初回だけ局所以外にもあちこちを不必要に、たくさんの関節や筋肉を触ってチェックする割には、その後、局所を毎回しっかり見ずに進んでしまっているようです。
チェックしない間、大概は癒着した部分や凝った部分などは再度、くっついてしまうのが普通です。ですので、徐々に癒着と硬結とがある元の体に戻ってしまう期間を広げていき、最終的には矯正や組織間のリリースなどは必要としない身体を目指していきます。
…続く。
※なお、この文章は編集部の許可を得て掲載しております。
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