【治療家のための健康医療情報サイト【Good Health】「監督・チームから感謝の嵐! 足部舟状骨骨折術後のリハビリから試合復帰までをスムーズに進める方法」より 寄稿者:杉山貴規(理学療法士/JADMT準徒手療法士、SC相模原U-18トレーナー)】
スポーツ選手を多く診ているドクターでさえ、手術経験なしや患者さんに出会ったことのない「足部の “舟状骨骨折” についてのリハビリの実際」
舟状骨骨折と聞くとみなさんは手の舟状骨骨折ですが、今回ご紹介するのは足の舟状骨骨折についてご紹介したいと思います。舟状骨骨折でインターネットや書籍を開いても、手のことばかりで足の舟状骨骨折に関しては情報量が乏しい状態です。探すの大変で困っている治療家の方々多いと思います。ないものを探すって本当に大変。。。素早く、舟状骨骨折についてのリハビリについて見つけて、クライアントのためにより良いリハビリをしていきたいものですよね。
事実、舟状骨骨折をインターネット上で検索すると上位10件中足に関する記載は0件なのです。そのくらいマイナーな疾患なのです。実際スポーツ選手を多く診ているドクターですら、手術経験なしや足部の舟状骨骨折に出会わないケースがほとんどのようです。
しかし、困っているクライアントは多種多様であり、わからないなど言ってられないのです。そこで今回は、足部の舟状骨骨折のリハビリに焦点を当てて、どんな治療家でもこれを読めば足部の舟状骨骨折のリハビリに関して大丈夫というとところまで持っていきたいと思います。
細かいところを言えば色々ありますが、基本は骨折。骨折がどのようなもので、抵抗力と負、、、っおっとと。これ以上はここでは言えませんが、クライアントや周りにいる関係者が笑顔になれるように、治療家として最高の結果を導くために、ぜひ読み進めていってください。
目次
- 1.手じゃないの??『足』の舟状骨骨折後のリハビリ
- 1-1 標準的なリハビリプログラム
- 1-2 私が経験した足部舟状骨骨折のリハビリプログラム
- 1-3こんな時は舟状骨や第五中足骨の骨折を疑え!!
- 症状
- 診断
- 治療
- 2.術後の変化を見逃すな!足部疼痛以外に起こる症状
- 2-1 足背の痺れは、体に高負荷が…注意しろ!
- ①腓骨神経の圧迫による循環不良
- ②腰椎仙骨周囲の循環不良による問題
- 2-2患部側の下肢、腰部の違和感に注意!
- 2-1 足背の痺れは、体に高負荷が…注意しろ!
- 3.足部骨折の治癒期間を阻害しない4つの方法
- 3-1 抵抗力と負荷量の関係
- 3-2 血管栄養・神経系・リンパから考える骨折の癒合を早める方法
- 3-3 栄養による骨折癒合を早める方法
- 3-4 ポジティブシンキングで骨癒合を早くする
- 4.まとめ
1.手じゃないの??『足』の舟状骨骨折後のリハビリ
大腿骨頸部骨折、脊柱圧迫骨折や橈骨遠位端骨折とは少し違う知識が必要な「足関節の舟状骨骨折」
足関節の舟状骨本当に珍しい疾患ですよね。珍しからといって、おどおどする必要はありません。結局は骨折なのですから、骨折の治癒期間に沿って行えばいいのです。ただ、大腿骨頸部骨折、脊柱圧迫骨折や橈骨遠位端骨折とは少し違う知識が必要になってきます。
それは、舟状骨に分布する血管や神経の分布にあります。前者の骨折では多く血管や神経が分布していますが、舟状骨付近になると神経や血管の分布が極端に少なくなってきます。この事実はとても重要なことです。それは、神経や血管の分布が少ないということはそれだけ、舟状骨に対しての栄養が行き渡りにくいことを示しています。つまり、治癒期間が長いということになります。小さな骨だから治りが早いと思いがちですが実は上記のような身体的な構造により治癒の経過が長いことを頭に入れながら、実際のリハビリプログラムを紹介したいと思います。
1-1 標準的なリハビリプログラム
術後は
- 4〜6週間の免荷後
- 6〜8週で全荷重開始
- 3ヶ月でジョギング
- 術後4〜5ヶ月でスポーツ復帰
状態がひどい場合(骨欠損に応じて)には、運動復帰やスポーツ復帰を遅らせている。術後の早期復帰で症状が残存しているうちに無理に復帰すると、遷延治癒や再骨折、変形性関節症を引き起こす可能性が大きく、復帰が遅くなる要因になります。スポーツ復帰は慎重に行うべきです。標準的に見ても、競技に復帰(試合復帰)に5ヶ月要することになります。これはあくまでも標準ですから、選手の状態に合わせて治療、リハビリの介入していくべきです。
1-2 私が経験した足部舟状骨骨折のリハビリプログラム
まず症例の紹介です。
<17歳高校生サッカー選手>
- ポジションMF
- 練習中に足部に激痛
- 後日病院に受診:足部の舟状骨骨折との診断 → 手術適応
- 手術:ボルトで固定
- ドクターの指示:3ヶ月後のサッカー復帰を目指す
ここで重要なことは
- 骨折部癒合を妨げないこと
- 早期に骨折を回復させること
- サッカー復帰を念頭に患部以外のトレーニングを行うこと
- 本人の気持ちをキレさせないようにすること
を念頭に置きリハビリを行なっていきます。
当たり前ですが、骨折部とその周囲の抵抗力と負荷量の関係と選手の気持ちの部分をしっかりと見てあげることです。気持ちに関しては細かくは話しませんが、自律神経機能が大きく関わるので、ここの部分が弱いと治癒速度が阻害されてしまい3ヶ月の復帰が伸びてします可能性が出てきます。
プログラムはドクターの指示のもと3ヶ月後の復帰を目指し、
- 術後3週間は免荷
- 4週目インソールをつけた状態で片松葉杖歩行を開始
- 5週目リハビリ内で全体重かけての歩行開始
- 9週目インソールをつけてジョギングを開始
- 12週目で4・5割のシャトルランや20分走
- 14週目で7割でのシャトルラン、スラローム、ジャンプ、ボールを使った基礎練習
- 16週目一部骨の癒合なされないが、インソールも外してのサッカー復帰がドクターからでる
- 17週目足部の感覚を聴きながら8割でのシャトルラン、スラローム走、ショートパス練習を実施
- 18週目ロングキックや軽めのシュート練習
- 19週目対人練習、ミニゲームへの参加
- 20週目で全体練習へ
- 21週目で試合復帰となる。
ドクターが言っていた、3ヶ月での復帰が伸びた理由としては、骨癒合がうまくいかなったことが挙げられる。16週目でドクターの許可が出ているからここで、復帰でいいはずなのにさらに1ヶ月も伸びているのは、足部の抵抗力と負荷量のバランスが悪いと判断したためである。しかも、舟状骨は神経・血管が乏しいところなので急に激しい練習を行うと、再発する恐れがあったので選手と監督と話し1ヶ月伸ばして復帰させた。現在では、試合にも出場しチームの中心選手として活躍し、選手も監督もチームもこの結果に満足している。
1-3こんな時は舟状骨や第五中足骨の骨折を疑え!!
スポーツなどで、繰り返し負担のかかる練習を続けて起こる骨折(疲労骨折)。この骨折の場合、多くは活動性の高い中・高校生やスポーツ選手(サッカー、陸上、バスケットなど)に多い骨折になります。
症状
初期は運動時や運動後に痛む程度ですが、進行すると日常生活でも痛むようになります。完全な骨折に至った時には、急に痛みがひどくなることがあります。靭帯や筋肉部分などの軟部組織以外の骨部分の痛みや腫れなど(炎症兆候)があったら、軽微でも疲労骨折を疑って早期に整形外科(画像診断をしてくれるところ)に行き、検査をすることを勧めます。
診断
初期は、レントゲンで骨折がわからないことが多く、診断にMRIやCTが必要となります。完全な骨折に至ったり、骨折が治り始めてくると、初めてレントゲンで骨折がわかるようになります。
治療
多くの疲労骨折は安静のみで治癒しますが、第五中足骨(Jones骨折)や舟状骨の疲労骨折など難治性ものは、早期スポーツ復帰のために手術を選択します。
2.術後の変化を見逃すな!足部疼痛以外に起こる症状
足部のリハビリを重点的に行う。とてもいいことだし、大切なことです。しかし、手術した部位にばっかり気を取られていると実は大変なことが起こってしまいます。それは、足部の機能が低下し、他の筋骨格系の代償が大きくなってしまうからです。代償??そうなんです。代償が起こるということは他部分へのしわ寄せが大きくなってしまいます。自分なんかもそうですが、急に私用が入り仕事を休まないといけなくなった時に他のスタッフに自分の分の仕事が上乗せされます。すると他のスタッフへの仕事量が増え、いつもより疲れたり、最悪の場合ミスをすることがあります。まさに、今回の事例と同様のことが起こるわけです。なので、ここで重要なことは、あらかじめ予防的に予測立てをして、過負荷による二次的な被害を抑えておくこと重要なのです。
次に記すのですが、これらの多部位による症状の多くは環境的な要素、上記にも記した代償によるメカニカルストレスと同一部位の支配神経領域の循環不全が考えれれます。また、確率的には少ないのかもしれませんが、全く違うことで症状が出現するときもあります。その時は他の診療科への受診が大切になってきます。
2-1 足背の痺れは、体に高負荷が…注意しろ!
①腓骨神経の圧迫による循環不良
長時間同一姿勢や術後の足部の不動により起こることがあります。ティネル兆候が見られ、舟状骨の周辺を叩くとビリビリした不快な症状が出てきます。下図でいうと、L5、浅腓骨神経の領域にかかっています。舟状骨骨折の術後、骨癒合のためにインソール長時間着用による最優先課題とされているために、不動期間が長く、局所周囲の循環不良になってきます。そのせいで、痺れや違和感といった異常感覚を生じることになるのです。上記のことをドクターに伝え少しでも二次障害が起こらないようにコミュニケーションを図ることが重要です。
②腰椎仙骨周囲の循環不良による問題
足部の舟状骨はデルマトーム領域でいうとL4、5にあたります。このL4、5に関与しているだけで、その部分の腰椎仙椎の循環不良になってきます。つまり、神経、循環が不良になってくるとその部位の周囲に疼痛や筋緊張が亢進したりするのである。この後にもいうのだが、L4、5部分がこうなるということは、下肢のL4、5支配されているすべての筋骨格系上記の影響を及ぼしてきます。
2-2患部側の下肢、腰部の違和感に注意!
下肢の各関節や腰部に負担がかかり臀部周辺がしびれたり、膝に痛みがであり、重さを感じたりなど多岐にわたる症状が出現してきます。私が経験した症例だとグロインペインに似た症状、腰痛、ハムストリングスの疼痛や坐骨神経様の痛みなどがあります。しかもこれが一度に起きてきます。
原因として考えられることは、
- メカニカルストレスにより、患側部の下肢と腰部にはストレスが波及されて起こる場合
- 血管や神経の循環不全を引き起こし、同一部位の支配神経や自律神経領域で症状が出現
- 栄養状態が悪い時にも同様の症状を引き起こす可能性
…らがあるので、多角的に見て行く必要性が出てきます。運動連鎖に関しては上行性や下行性などありますが、必ずしもそのルーティーンに当てはまることがないので、しっかりと選手・クライアントの姿勢を観察してどこにどのようなストレスがあり、予後の予測立てをしていく必要があります。
3.足部骨折の治癒期間を阻害しない4つの方法
骨折したら治療者は幹部外トレーニングを行い、骨折部にアプローチしてはいけないのでしょうか?まさにその通り、直接的には関与しない方がいいですね。しかし、医師の判断でリハビリ時に固定物を外していい場合もありますその時は患部に治癒過程を遅らせない程度に行なっていきます。では、どのようなことができるのでしょうか? 関節可動域訓練? リラクゼーション? マッサージ? 筋力訓練? などなど。。。
これらは何のためのリハビリなのでしょうか?
患部の硬さが出ないようにとか、浮腫が出ないようにとか、血行をよくするためとか。。。これも理由の一つです。でも、自分が考えるのは硬さ、血行、浮腫予防だけではありません。何のために行なっているのか、選手・クライアントのために骨折を早期に治癒させ、現場に即戦力で復帰させることです。そのためには、骨折の治癒を促進させることが一番の目標なのです。足部の栄養供給、神経系やリンパのことをイメージしてリハビリに取り組む、運動療法や運動連鎖だけではない。様々なことを考えて、全力で立ち向かうことが最優先事項なのです。
3-1 抵抗力と負荷量の関係
リハビリを行うときに、なんとなくで考え運動負荷量をなんとなく考えて行なっていませんか?この人なら、この年齢なら、体幹トレーニング1分、腹筋20回できそうだな。やってみよう!!ではなぜその負荷量?抵抗力?なんとなくですよね。それでは、少し考えが甘いと思います。一番いい方法はそん人のバックグラウンド(既往歴)などは必ず考慮しなければいけませんが、限界ギリギリのところを考える必要性があります。下図をイメージしてできるといいともいます。この抵抗力と負荷量が釣り合っている時が限界ギリギリです。これが崩れてしまうとトレーニング効果が落ちてしまい、下図のような超回復がなされないのです。
では、その抵抗力や負荷量はどのように決定するのでしょうか?一つの指標はクライアント・選手との表情、心拍数、酸素飽和度などなど。行う種目、抵抗力、負荷量を少しずつあげていく、でもギリギリを攻めることが重要です。この作業を行うことで、イメージとしては包丁や刀を作るときに鍛える作業みたいな感じですね。火入れをして、鋼を加えて、水に入れて冷やす。これを繰り返すことで鍛えられ強靭な鋼になっていきます。骨もそうです。
みなさん覚えておいてください、適度な休息、運動、栄養が強靭な骨を作り上げる方法になります。この天秤の見極めをセラピスト主導で行いクライアント・選手とコミュニケーションをとりながら行うことで、スムーズな回復と競技復帰、そしてパフォーマンスアップにつながっていきます。
3-2 血管栄養・神経系・リンパから考える骨折の癒合を早める方法
自分はまずこのよく目にするデルマートームとオランダで使用されている骨・筋膜の神経支配領域の図を使って、治療介入していきます。
骨、筋膜の支配領域がわかれば、あとはその部位の循環を良好にする治療を用いて神経や栄養血管の流れを良好にすることで、折れている部位の骨や筋膜の癒合の促進に繋がります。今回の舟状骨の骨折の場合デルマトームの表を見てみるとL4・5にあたります。オランダの骨・筋膜の神経支配の表によるとL4・5が舟状骨に位置するので、L4・5周囲の軟部組織、関節にアプローチすることで、骨折部位の栄養・酸素の供給が良くなり骨癒合が促進されます。幹部ではなく、骨折部を支配している神経血管にアプローチして循環を良好にすることで骨癒合の促進に繋がるのです。
3-3 栄養による骨折癒合を早める方法
骨折すると骨代謝が盛んになり、多くのカルシウムを体から局所部位に運びます。食事の栄養バランスが悪く、必要な栄養素が不足すると、骨代謝が充分に行われません。反対に栄養がしっかりとれていれば、骨代謝が好循環して治癒期間を短縮することが可能なのです。骨折時の食事は、通常時よりも大切です。
骨折時に必要な要素コラーゲン、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンK 、カルシウム、マグネシウム
この六つの要素が入った食事をとることが骨の癒合を早めます。しかし、これだけだけ食べればいいというわけではありません。骨代謝を促すだけではく、全ておいてバランスよく食事をとることをお勧めします。
3-4 ポジティブシンキングで骨癒合を早くする
クライアントは怪我をするとネガティブになりますよね。しかも腱の断裂ともなると長期にわたりプレーができなくなることは必至です。受傷直後はそうでもないのですが、時間が経過して、しかも季節が変われば変わるほど、選手の気持ちはネガティブになったり、焦りが出てきます。そうなってくると、無理に運動しようとするクライアントも多くなって来ると思います。また、焦りは不安に変わっていき自律神経に影響が出てきやすくなります。
ここでは簡単に説明しますが、自律神経は栄養と酸素を供給する大切な神経です。その神経が焦りや不安といった心的な要因で働きが悪くなってくるのです。なので、クライアントに対してポジティブに物事を考えるように仕向ける必要性があります。
- 的確な説明・・・現状を説明し理解を深める
- 短いゴール設定をたくさん作る・・・短いゴールを作り達成感をたくさん作り、復帰というゴールに持っていく
- メンタルトレーニング・・・心的不安を取り除くために瞑想・ストレスコントロール・目標設定・リラクゼーション・イメージトレーニング・集中力
上記に書いたことが全てではないのですが、気持ちが体に及ぼす影響は近年多くの研究で明らかになってきています。メンタルが身体機能や治癒機能に大きく関わってきているのです。
骨折について、こんな記事もあるのでご参照ください。
4.まとめ
今回扱った骨折に関してのリハビリであるが、まず骨折部位の循環状態がどうであるかが重要です。小さい骨ではあるものの、血管が少ないために循環が乏しく治りにくい場所このことを治療者は知るべきです。また、クライアント自身の環境について考え、メンタルや食事など身体と無関係だと思われるところにも介入していき、クライアントが最高の笑顔で試合復帰を迎え、クライアントを取り巻く全ての人たちも幸せになれるようにする責任が治療者にはあると考えます。さぁ、最高の治療で最高笑顔を取り戻しましょう!!