術後に膝が曲がらない本当の理由 | 日本オランダ徒手療法協会

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術後に膝が曲がらない本当の理由

2020.06.18

from 黒田雄太  @自宅デスクより

 

「木を見て森を見ず」

 

この言葉をあなたは知っていますか?

 

意味は「細かい部分にこだわり過ぎて、大きく全体や本質をつかまないこと」

 

実はこの言葉の語源はヨーロッパらしいです。

 

ドイツ、イギリス、フランスなどには「木はしばしば森を隠す」、「木を見ているものは森を見ることが出来ない」ということわざがあり、その言葉が変わって日本でも使われるようになったとも言われています。

 

日常やビジネスシーンでいろんな使われ方をしますが、考えや行動に対しての”反省や後悔”として使うことが多いです。

 

例えば、「目の前の事だけに集中しすぎてしまうなんて、まさに木を見て森を見ずだよ。

」という感じで。

 

僕は当にこの言葉通りに後悔が残ってしまった患者さんがいます。

 

まだ若手の頃の話ですが、この経験が僕をとても成長させてくれました。

 

本当に目の前のことだけに集中してしまっていたんですね…

 

過信が招いた悲劇…

 

これは僕が今でも鮮明に覚えている失敗談です(汗)

 

PT3年目で総合病院に勤務していた時の話。

 

僕が当時勤めていた病院では人工膝関節全置換術後(以下TKA)の患者さんを見ることが多かったんです。

 

今では腰痛専門でやってますが、DMTに入る前までは自称「膝」専門(苦笑)で、膝を得意としていました。

 

まだまだ若手でしたが、勉強会に行きまくっていたせいか、少しずつよくなる患者さんが増えて来ており、自信を付けてきた時期でした。

 

TKAの患者さんについてもしっかりと膝の可動域を上げることも出来たし、歩行や階段昇降まで身体機能をアップさせて退院させていたんです。

 

そんな上り調子だった時に、TKAでめちゃくちゃ苦戦した患者さんがいたんです。

 

すでに術後4週以上経過していたのに、膝の屈曲が60度!

 

TKAの術後リハをしている人ならわかると思いますが、めちゃくちゃリハの進行が遅いです(汗)

 

確かにこの患者さんは術前は屈曲100度で可動域制限は結構強かったんですが、それにしても曲がりが悪い!

 

地道にやっていればじきにに曲がっていくだろうと思っていたんですが、そろそろ焦ってきた僕(涙)

 

膝の屈曲可動域を上げるために

 

・術創周囲の皮膚のモビライゼーション

 

・膝蓋骨のモビライゼーション

 

・大腿四頭筋、腸脛靭帯など膝に関連する筋群のリリース

 

・CPM(持続的に膝の屈伸をしてくれる機械)による長時間の可動域訓練

 

必死にこれらのことをやっていたんですが、一向に可動域は変わりません(涙)

 

僕にも焦りがあったため、つい痛みを出しながらの可動域訓練をやったこともありました。

 

すると、翌日には腫れが出て、可動域は後退。

 

腫れや痛みが出たため、それを改善するためのアイシング…。

 

この悪循環でした。

 

このように膝関節術後の患者さんで可動域が上がらない患者さんっていますよね?

 

実は可動域が上がらない本当の理由は、可動域訓練のやり方ではなかったりするんです。

 

もっと全体を見る必要があります。

 

膝だけを見ていては解決出来ない問題だったんです。

 

術後にも残る術前からの歩きの癖

 

痛みを出しながらの可動域訓練、さらに腫れたらアイシング…

 

これは最悪の対応です。

 

基本的にどのようなリハビリでも「痛み」を出しながら行うことはNGです。

 

なぜか?

 

痛みが出るということは感覚神経が反応します。実は感覚神経と筋肉を動かす運動神経、循環を司る自律神経は相互に関連し合います。

 

なので、痛みが出ると

 

・運動神経に反応が出て、筋緊張が高まる

 

・自律神経に反応が出て、局所循環が悪くなる

 

つまり、膝周りの筋肉をはじめとした組織は硬く、循環が悪くなるのです。

 

さらに腫れを取りたいからといってアイシングを行い、冷やすことによって、術後で元々硬かった皮膚をはじめとした組織の循環はもっと悪くなります。

 

このような理由から膝の可動域はますます上がらなくなります。

 

ですが、膝の可動域が上がらなかった原因はさらに別にあったんです。

 

それは『歩き方』!

 

この患者さんの術前からの歩き方は膝の屈伸が全くない、いわば「棒足歩行」

 

通常は歩行で膝の屈伸が行われることで、膝周りの組織が

 

・引っ張られる⇆緩む

 

・圧迫される⇆除圧される

 

を繰り返します。そうすることで組織内の循環が良くなります。自ずと組織の柔軟性も出てきます。

 

この現象を「スポンジ効果」と言います!

 

ですが、「棒足歩行」ではこのスポンジ効果が全く起こらないんです!

 

膝の屈伸がないので、要は膝を伸ばしたまま固定して歩いているようなもの。

 

日常の歩き方が常に膝を固定し”不動”にしていたのであれば、当然リハビリの時に可動域訓練をしても可動域は上がりませんよね。

 

この患者さんは術前からの歩き方が術後も残ってしまっており、それが原因で術後の膝の可動域が上がらなくなっていたんです。

 

動きの癖は運動パターンって言ったりしますが、その修正の仕方はまたの機会に紹介しようと思います。

 

それに気づいて歩行に対してアプローチしましたが、その患者さんは結局最終的にも70度ぐらいまでしか曲がらなかったですね。

 

とても申し訳ないことをしたなぁと今でも悔いが残ります。

 

今回僕が失敗談を紹介したのは、これを見たセラピスト・治療家のあなたに僕のような失敗はして欲しくなかったからです。

 

良くなったケースも確かにありますが、上手く出来なかったことから学ぶべきことはたくさんあります。

 

失敗は確かに辛いですが、失敗を恐れずにあなたも治療にリハビリにたくさんのチャレンジをしてくださいね!

 

【グッバイ!腰痛!】そんな日がいつか来ますように

 

P.S

その当時の僕は局所の細かい部分ばかり見ていました。とても狭い視野で患者さんを診ていたんですね。上手くいかない時には一度距離をとって全体を俯瞰することが大事です。


この記事を書いた人

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黒田雄太

長崎県在住の理学療法士。【JADMT公認】オランダ準徒手療法士。基礎コース・福岡校アシスタント担当。Nagasaki Orthopaedic & Sports Physical Therapy(NOSPT) 役員。総合病院、整形外科クリニック、デイケア、特別養護老人ホームを経験。 自身の“辛い腰痛”の経験から、「世の中の腰痛で苦しむ方を助けたい」という使命を持つ。 一時的に自覚症状を解消するだけの対処療法ではなく、腰痛の患者様を「施術」から「トレーニング」までトータルにサポートすることを信条としている。一児の父。