リハビリの「goal」を設定してますか? | 日本オランダ徒手療法協会

therapy-theory

リハビリの「goal」を設定してますか?

2017.09.26

こんにちは。日本オランダ徒手療法協会の木内です。

 

突然ですが、皆さんが考えるリハビリテーションのgoalとは何ですか?

 

「もう一度仕事ができるようになりたい」

「趣味の〇〇ができるようになりたい」

「また歩けて、自分の身の回りのことができるようになればいい」

 

…このように患者さんによって目標って様々ですよね。

ここで、もう一度お聞きしますが、あなたの担当している患者さんは、どうなれば良いんですか?

 

最近は、「姿勢」や「アライメント」などに着目されている先生方も多いかと思いますが、そのアライメントは本当に治す必要がありますか?

 

確かに効率的に身体活動を行い、局所のメカニカルストレスを減らしていくにはアライメントの修正も必要なのですが、実はみなさんが考えているよりも完璧に修正する必要はないです。

 

というのも、アライメントの変化は長い年月をかけて軟骨が薄くなったり、その身体活動に合わせて適応した結果、引き起こされます。したがって、運動パターンも同じ年月をかけて、変化しているのです。

 

そのため、アライメントを修正しても、同じような運動パターンで生活をしていては、そのうち戻ってしまうのは明らかです。

 

では、どうすれば良いのかというと…

アライメントの修正に加えて、『組織の抵抗力』という概念を持つことが大切となります。

 

皆さんの普段行なっているリハビリにこの概念を足して、目標から逆算して、個々に必要となる運動療法やエクササイズを組めるようになると、今までとは全く違ったリハビリが提供できるようになります。

 

今回は膝関節をモデルに、リハビリテーションの目標アプローチ戦略について、お伝えしていきたいと思います。


月刊スポーツメディスン No.192 7月号 2017年

連載 運動を制限する要素の考え方②

-姿勢や動作を制御しているときに何が起こっているのか-

前回は、ケガから復帰させる条件として、再発を防ぐために「局所の抵抗力」をどう強化するのかを、“ ハムストリング肉離れ ”を題材に、ヒントとなる理論的な考え方や、サッカーの現場で実際に使われているトレーニングメニューを紹介しました。

 

今回は、「姿勢や運動を制御しているときに何が起こっているのか」について、感覚神経と運動神経との関係をモデルを使って捉えていきます。

 

早速、以下いつもと同じように、T:土屋潤二、S:生徒で示し、対話形式で進めていきます。

本物の使える知識=人に説明できる

T:リハビリで実際にみなさんが気にされることは何でしょうか?

 

S:しっかりと骨折をした骨がくっついたとか、局所が治ったかどうかも大切なことなんですが、復帰した後に再発していないかどうか、ときどき心配です。

 

T:再発して靭帯が切れたり、膝が腫れてしまっては、元も子もないですね。そうならないために、Sさんはどのような取り組みをされているんですか?

 

S:「腰痛」患者ならコアを鍛えて、しっかりと体幹を固めて支持できるようにしたり、「膝」なら体重を支えられなくて片脚着地時にknee-inしないように筋力をつけてコーディネーションのトレーニングをしたりして、日常生活での動作でも“大丈夫”なように鍛えます。

 

T:何が?どんな状態が“大丈夫”なんですか?

 

S:あ、やっぱりそう質問されますか? 土屋先生はいつも細かいところに厳しいですね(苦笑)。

 

T:ふふふ(笑)。わかっていそうで、本当の意味でその知識を応用するまでに掘り下げて理解しきれていなければ、その知識を使いこなすレベルになりません。だからこそ、「理路整然として人に説明できるレベルになる=ホンモノの使える知識」になってこそ、今度は自分がその知識を応用して創意工夫しながらトライ&エラーを重ねられるようになりますよ。

 

S:そんなもんですかね〜。

 

T:トライ&エラーができると、前よりも何かしらカイゼン(改善)しますから、トライ&エラーを繰り返せれば、それは成長を意味します。

 

S:わかりました。知識を使いこなせるレベルになるために、何でも答えられるように細かいところまで気をつけます。

 

T:少し違って伝わったようですが、こだわっていくことをはじめられると、同じゴールに行くでしょうからよしとします。

 

リハビリの目的 とは…⁉︎

T:さて、質問に戻ります。「日常生活での動作でも“大丈夫”なように鍛える・・・」というのは、どんな状態でしょうか?

 

S:そ、そ、それは・・・(困惑)。う〜ん、組織がまた破壊されないように丈夫な状態?!

 

T:50点ですね。それですと、丈夫にさえすれば良いので、Sさんが挙げてくれた例で言うと、たとえば、knee-inしても丈夫であれば「OK」ということを意味します。

 

S:違うんです! アライメントは整えたほうが再発を引き起こすリスクは減るんです。

 

T:そうなんですか〜?(笑) ・・・で、どうしてリスクは減るんですか?

 

S:局所を鍛えつつも、無理な体勢にはならない・・そう、過度に引っ張られたり、ぶつかったりする体勢を避けるために、安定した状態に戻します(図1)。そうすれば、よいアライメントとなって、過度に引っ張られたり、ぶつかったりするリスクを減らせます!(キッパリ)

 

   

図1 圧縮・減圧ストレスを減らすアライメント矯正

 

T:そうですね。 治療やリハビリを進めて行くにあたって、われわれがすべき課題は、大きく捉えて、以下の2点が大切になってきます。

 

リハビリテーションの課題
① 局所の抵抗力を上げるために鍛えること=「組織の抵抗力を上げる」
② 支持をしたり/力を伝えるのに効率的なアライメントとおりの“姿勢”や“動作”を取り戻すこと=「姿勢/動作の改善」

 

S:先生、うまくまとめますよね。「組織の抵抗力を上げる」と「姿勢/動作の改善」・・・っと。メモメモ。

 

T:リハビリに関してのよい結果を考えてみたときに、極端な話、歪んでいようが「とてつもない局所組織の抵抗力」をつければ、再発リスクはありません!

 

ですが、構造的に徐々にしか強くなっていきませんので、組織によっては治癒期間が長く現実的ではありませんね。軟骨なんて、1年以上とか、500日とか言われていますので、「組織の抵抗力を上げる」だけのリハビリは時間的に無理だし、効率が悪いですよね。

 

S:院内の保険診療で済ませようとすると「算定日数の壁」があります。保険診療期間内で治せなければ、お手上げです。

 

T:「抵抗力UPのリハ戦略」だけではダメなんです。これに加えて、先ほどのリハの課題として、挙げた2つ目がポイントになります。すなわち、無理な物理的な力がかからないように、効率よく身体を支え、効率よく力を伝える・・・ことです。

 

S:(メモを見つつ)「2.支持をしたり/力を伝えるのに効率的なアライメントどおりの“姿勢”や“動作”を取り戻すこと=姿勢/動作の改善」!

 

T:そうです。リハ戦略は結局、「組織の抵抗力を上げる」と「姿勢/動作の改善」です。これまでの連載ではかなりの部分を、大きく言って「抵抗力」や「負荷」の話しで費やしてきましたので、「姿勢/動作の改善」の話を取り上げます。

 

S:よろしくお願いします。

 

姿勢/動作を安定させるために

T:われわれオランダ徒手療法でのゴールは、最終的には、「再発を防ぐ」というレベルではなく、心地よくカラダを動かせ、動くにしても軽く感じたり、疲れなくなったり・・・と、受傷前レベルをはるかに超えた運動機能を取り戻す。

 

つまり、パフォーマンスアップがゴールになります。そのゴール達成のノウハウはまた別の機会に紹介します。

 

S:え〜、教えてくださいよ。

 

T:まずは、組織レベルで根本原因を推測して「仮説」が立てられる能力を身につけましょう。それができていないと、実は、残念ながらこのゴール達成のノウハウを伝えられない関係にあります。

 

S:本当に残念ですが、わかりました・・・。

 

T:さて、姿勢/動作を安定させることについて考えます。例にも挙げてくれた「膝」だけれど、どうなれば“安定”すると思いますか?

 

S:よく言われますが、脚をついたときに大腿四頭筋の内側広筋は重要ですよね?

 

T:たしかに膝関節の伸展位である「0度」から「30度」でとくに働いてくれるのが、内側広筋です。それで内側広筋のみ、十分に収縮してくれればよいですか?

 

S:え?

 

T:下記のような動作は日常茶飯事ですが、膝の安定性をどのように実現しましょうか?

 

・町を歩けば地面が凹凸だった。

・水たまりの上を車が通過した瞬間に跳ねた水を避けようと、足の着地の仕方を真上から着地せずに、ストップするために前方向に押した。そうすることで歩くことをストップした。

・蹴つまずいてバランスを崩した次の一歩で、膝の固定と同時に股関節や体幹が屈曲してしまった。

 

・・・等々、いろいろと膝が動揺してしまう場面で、使われる筋肉は想像できますか?

 

S:難易度高すぎです! 膝の話だと思っていたら、股関節や骨盤が絡むのでハムストリングも関係しますし、ストップ動作であれば、足首を底屈させる下腿三頭筋も使われますよ!!

 

T:ハハハ(笑)。そうですか?難しいですか? 

 

股関節がある場所はカラダの正中線から外れていますから、片脚で骨盤を支えるときには、股関節が内転してKnee-inしないように股関節外転筋(中臀筋など)が使われるだろうし(図2)、膝がKnee-outするようであれば、股関節内転筋も使われるでしょう。

 

図2 上方から見た“Knee-in”する膝関節

 

S:え、結局は全部じゃないですか(怒)!

 

T:そうですよ〜。頭で考えずに、大腿を周囲全体包み込むように両手で触りながら、片脚着地してみてください。

 

S:(やってみながら)うわ、本当だ!全部が緊張している。

 

T:“共収縮(co-contraction)”と言いますが、全ての筋肉が収縮することで「膝の安定」が実現できます。このようにある動作をするのに、その動きに要求される独特の筋の使い方があります。

 

・・・続く。

※なお、この文章は編集部の許可を得て掲載しております。

Book House HD


この記事を書いた人

アバター画像

木内 隆太

6年の鍼灸接骨院を経て、スポーツ現場に活動のフィールドを求め「DMTスクール」の門を叩く。 『再発予防やパフォーマンスアップとを通じて臨床とスポーツ現場を繋ぐこと』を目標に 日本オランダ徒手療法協会で代表をしている土屋氏に師事。オランダ徒手療法を学ぶ。 サッカーJ2松本山雅FCユースアカデミーフィジカルコーチ、元Vonds市原FCトレーナー兼フィジカルコーチアシスタント 長野出身 <資格/ライセンス> 柔道整復師、日本サッカー協会指導者ライセンス「公認B級コーチ」、日本オランダ徒手療法協会「準徒手療法士」