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日本人は自ら成長する芽を摘んでいる⁈ -オランダ徒手療法-
2017.05.17【写真 引用元】
http://www.eshopforsports.com/products/tanita-tanita-leicester-portable-height-measure
突然ですが…、みなさんは選手を守ることはできていますか?
「…⁇」や「そんなこと当たり前じゃないか!」と思うかもしれませんが。。。
ここで私が言う《守る》とは、選手の将来を考え、きちんと現場で意見を言えているか?ということです。
日本ではクラブの都合や、立場、上下の関係性があるため難しいことが多いです。しかし、選手を守ることをできるのは、現場にいるあなたにしかできません! 時には「休む」という選択を提示することも、選手を守るためには必要になってきます。しっかりと自信を持って議論するためにも、本日紹介するような面白いデータも知っておくといいかもしれません。
さて、今回ご紹介する記事は育成年代の「成長」に関わる因子についてのお話です。日本人は小さい…そんなレッテルが貼られてしまっていますが、それは遺伝にかかわらず、後天的に引き起こしてしまっている可能性があります。ビジネスシーンでも日本人はしっかりと「休む」ことを上手くできない人が多いですが、効率や将来のことを考えれば上手く「休む」ことは、スキルの1つであると思います。
オランダのサッカークラブで育成年代のメディカルチェックなどを担当し、日本との大きな違いを感じたという、土屋 潤二氏(当協会 代表理事)による非常に興味深い記事です。この記事を読んだあと、もっと学生の時に休めばよかったと後悔すると思います(笑)。
月刊スポーツメディスン No.186 12月号 2016年
連載 細胞/組織レベルの体内環境を考えることで治癒効果を引き出す②
-治癒経過を阻害する要因ごとにアプローチを変えろ!-
以下、T:土屋潤二、S:生徒で示し、対話形式で、オランダ徒手療法の考え方を示していきます。
カルシウムの貯蔵タンク「骨」が成長しないとき
T:私が働いていたオランダのサッカークラブの育成では、毎月、身長と体重とを計測していました。日本でも、同じように身長と体重を計測しているチームもあるかと思います。オランダの育成年代はしっかりと1ヶ月以上も夏休みをとり、クラブの活動が休みになります。
日本でも春休みや夏休みはありますが、知っての通り、学校の休みは絶好の部活動の繁忙期で反対に練習や試合が全国的に多くなる傾向にあります。
ですが、オランダの休みは本当に休みで、家族で長期休暇をするをする時期になります。夏休みが終わり、また新シーズン(オランダのシーズンは8月/9月から5月頃まで)に向けてトレーニングが再開される最初に身長/体重を計測します。
すると、1㎝以上身長が伸びた子供がほとんどで第2次成長期にあたる年代などでは稀ですが、2㎝近く一気に伸びる子供も出てきます。さすがに成長期の障害リスクもあがりますので、そんな子供はトレーニングの頻度を制限して刺激/負荷のコントロールをしたりしましたが…(グラフ1)
S:休みでオランダ人は大きくなるんですね!でも何でだろう?
T:何ででしょうか?骨の生理学で「骨は体内のカルシウム量を一定にするための貯蔵タンクでもある」というのを覚えているかな?骨以外でカルシウムが不足していると、骨からカルシウムが溶け出してしまいます。そもそも、カルシウムは骨を形づくる以外に体内で以下のような多くの働きがあるから、1年中、疲労困憊にスポーツをしていると背は伸びないだろうね。
体格に劣る日本人は自ら成長する芽を摘んでいる⁈
T:実際、オランダの例でサッカーをしていなかった6〜7月に背が伸びたのは、サッカーのトレーニングで「心臓や筋肉の収縮弛緩のため」と「脳や神経の情報を伝達するため」、「血液や体液の状態を一定に保つため」…などにカルシウムが使われている分が、約1カ月間、カルシウムが骨の成長に回されたと考えられないでしょうか?
S:そうだとしたら、世界と比較して、どのスポーツ種目もだいたい、育成年代にハードなトレーニングをしている日本の育成年代のスポーツ選手は、休息できる時期があれば、もっと身長を高くできるかもしれないんでしょうか?
T:そうですね。可能性はかなりあると思います。単純に10歳〜18歳ぐらいまでの8年間で、第2次成長期の期間を考慮しないで計算すると、個体差もあり毎年6〜15㎜の差が広がっていくとして、「6〜15㎜/年×8年=4.8〜12㎝」と計算できます。
成長期のことを考慮して覚えやすい数字に丸めると、一年中サッカーをやっているサッカー少年が適度な休息を毎年取れば、「5〜10㎝」の身長が伸びる可能性があるのではないでしょうか?
S:えーーー!そんなに損をしているの⁈
大人のチームで公式戦デビューした、今、話題の15歳の天才サッカー選手の将来の身長が心配になってきました。
T:本当に心配ですね。対策として考えることは、フィジカルトレーニングだけの知識ではなくて、発育発達や栄養のことも指導できる専門家が、所属サッカークラブの全面的な承認のもと、長期的にその天才サッカー選手をサポートしてあげることが望ましいだろうね。
S:これまで日本では、多くの天才スポーツ選手がでてきたけれど、トップアスリートになれた数少ない選手の陰に、数多くの埋もれた選手/消えていった選手がいる気がします。
T:育成年代の量的に多すぎるトレーニング負荷は、伸びるべき身長を伸ばさず、それ以上にタフな身体に恵まれなかったタレントを潰してしまっている可能性も考えられます。
一時的にタフでない身体の状態は、長期的にコントロールしながら鍛えれば強くすることができることを我々は知っているが故に残念ですね。
・・・続く。
※なお、この文章は編集部の許可を得て掲載しております。
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