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リハビリで “ 組織を強く ” するために必要な視点 -オランダ徒手療法-
2017.05.24
腱や靱帯、関節包も、筋肉と同じように強くすることができるのを知っていますか?
アキレス腱断裂後の腱組織であったり、足関節捻挫後の関節包など、リハビリテーションで強くしなければいけない組織が多くあります。しかし、そもそも“組織を強く”するという概念がないため、可動域を改善して、筋力トレーニングをして…そこから一気にレベルの上がった訓練をしている光景をよく目にします。
それでは、いつまでたっても痛みが良くならなかったり、再発のリスクが高まるだけです。人間の身体には、自然の法則のように原理/原則があり、それに従って組織は治り、組織も強くなります。
その場で変化を与えたいから治療技術を向上させたいという気持ちもわかるし、実際にそのようなセミナーが多いのも事実です。しかし、原理/原則を知り、上手くコントロールすることで、リハビリの結果を劇的に変化させることができます。
18年間、日本だけでなくドイツやオランダの大学・大学院で、医療〜運動/トレーニングを学び、日本人で初めてオランダの徒手療法士(理学療法士の上級資格)を取得した、土屋 潤二 氏(当協会 代表理事)による各組織を強くするための原理/原則について、わかりやすく解説されている記事をご紹介します。
本気で目の前の患者を良くしたいと思うのであれば、まずは原理/原則を知るべきです! 学生時代に戻ったつもりで、読んでみてください。
月刊スポーツメディスン No.185 11月号 2016年
連載 細胞/組織レベルの体内環境を考えることで治癒効果を引き出す①
-治癒経過を阻害する要因ごとにアプローチを変えろ!-
以下、T:土屋潤二、S:生徒で示し、対話形式で、オランダ徒手療法の考え方を示していきます。
「抵抗力 vs 負荷バランス」で強くなるもの:筋肉
T:前回の復習も兼ねて、運動器の組織はどうやって強くなっていくんでしょうか?
S:筋肉なら、トレーニングの刺激で壊れた筋繊維の一部が、休養中に修復されて少し太くなり、収縮力が増します。
T:筋肉の組織内のどの部分が壊れて、そして修復するのでしょうか?
S:う〜、ミオシンとかアクチンとかは聞いたことがあるんですが…。
T:筋力の向上は、実は初期段階では大部分が神経系の適応によるもので、筋肥大は事実上起こりません。活動していない「神経-筋ユニット」が動員されたり、タイミングよく神経がまとまって発火したり、拮抗筋の緊張をリラックスさせたり…。
しかし、その後にトレーニングを続けていくと、実際に収縮要素であるタンパク質「ミオシン」と「アクチン」とそれを支えるZ膜からなる構成単位“サルコメア”の集まりである筋原繊維に肥大が生じるとされています。
S:はぁ…
T:まぁ、簡単に説明するなら(笑)筋肉が強くなるのは「適度な刺激を受けた後に、適度な休息と適度な栄養とで神経-筋適応とタンパク合成が進み、強くなる」と覚えてください。
『適度な刺激-適度な休息-適度な栄養』…というのがポイントです。このうち一つでも過度だったり、不十分でも強くなりません(図1)。
・・・
「抵抗力 vs 負荷バランス」で強くなるもの:腱、靭帯、関節包
T:筋肉が強くなることは、理解してもらえたと思います。では、その他の腱や靭帯、関節包…などの軟部組織の場合を考えてみましょう。
これらの組織は主に引っ張られる力に対する「*抵抗力」を必要としていますが、どうやったら強くなっていくんでしょうか?
*抵抗力について深く知りたい方はこちらの記事をお読みください↓
「抵抗力vs負荷バランス」を理解する
S:…ちょっとよくわからないです。
T:そんなにすぐに諦めないで。では視点を変えて質問します。「綱引き」の網を強くするために、繊維ロープの専門メーカーは何をしているか知っていますか?
S:編み込んだ細いロープ同士でさらに編み込んで…太くする??
T:正解 ! 基本的に長さと強さを出すために繊維を編み込んで、再度、その編み込んだ細いロープを編み込んでいきます。要は、より多くの繊維を絡み合わせて密にし、さらに太くしていきます。
<写真>ロープを編み込むイメージ
写真引用元:http://clan.shop-pro.jp/?pid=19154763
腱、靭帯、関節包…などに当てはめていくとどうなりますか?
S:編み込むことはできないですが、コラーゲンを密にする?
T:コラーゲン同士を編み込むことは難しくとも、コラーゲンを増やしたり、ネットワークを密にしたりすることで、強度が生まれてきます。筋の収縮力を向上させるのと同じように、これらの軟部組織が抵抗力を向上させるためには、そのときそのときの『適度な刺激-適度な休息-適度な栄養』のサイクルを回せれば、コラーゲンが増え、その密度も濃くなり、結果「抵抗力」が強化されていきます。
<写真>コラーゲンの配列のイメージ
引用元:A. van der El.「Manuele diagnostiek wervelkolom」64-65
S:わからなくなってきたのですが、筋膜の限界張力を超えて生じる「ハムストリングの肉離れ」はなぜ生じるのでしょうか?
T:話が飛びますね。筋膜の限界張力を超えて生じる「ハムストリングの肉離れ」がなぜ起こるのか?Sさんはどう思いますか?
S:ん〜。筋肉も、骨も、その他の軟部組織も、すべて物理的な刺激を受けて、結果「抵抗力」が上がるんですよね⁈だから、適度な刺激-適度な休息-適度な栄養のサイクルで言えば、このどれか、あるいは複合的にどれも条件から合っていなかったら、「肉離れ」が発生する確率は高くなりそうです。
T:具体的には?
S:具体的には、刺激でいうと「不動(アンダーワーク)」だったり、やりすぎの「オーバーワーク」だったり、休息でも休みすぎで超回復の効果が過ぎて「不動」期間が長すぎたり、全く休みがなく披露が回復していなかったり、栄養でいうと「栄養不足」や「栄養過多」…ということでしょうか?
T:いい視点です。それをさらに深掘りしてみましょうか!
・・・続く。
※なお、この文章は編集部の許可を得て掲載しております。
月刊スポーツメディスンについては、下記のサイトを参照ください。
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