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ライフスタイルが治療に及ぼす影響とは?
2017.06.21
ケガの再発や繰り返される症状に対して対策を立てることはできていますか?
対症療法で一時的に痛みが取れることがあったとしても、患者様の生活の中に症状を引き起こす原因があるとしたら・・・
組織の回復には「刺激-休息-栄養」の適度なバランスが必要となります。
根本的に症状の原因を解決するためには【ライフスタイル】に介入して解決方法を提案していく必要があります。
なぜなら、1週間は1日24時間×7日間=168時間あります。
その中で、治療にあてる時間を週1回、1時間と設定した場合、残りの時間は167時間です。
この残りの167時間という時間の中で局所に負担の掛かる動作を繰り返していると、
再び症状が現れるという悪循環から抜け出すことができません。
根本的な解決のためには患者様のバックグラウンドについても把握し、介入していく視点が必要です。
トップアスリートから一般の患者様まで、
幅広い症状の悩みに対して的確な治療とアドバイスによって解決に導いてきた土屋 潤二氏(当協会 代表理事)による、日常生活に潜む「症状と症状を引き起こす行動との因果関係」について、わかりやすく解説されている記事をご紹介します。
月刊スポーツメディスン No.185 11月号 2016年
連載 細胞/組織レベルの体内環境を考えることで治癒効果を引き出す①
-治癒経過を阻害する要因ごとにアプローチを変えろ!-
以下、T:土屋潤二、S:生徒で示し、対話形式で、オランダ徒手療法の考え方を示していきます。
治癒経過を阻害する要因:ライフスタイルの影響
T:風邪は、同じ日常生活を過ごしていても免疫が下がるとウイルスに感染して発症しますよね。これは「負荷(感染)」に対して、「抵抗力」が下がったことを意味します(図3)。
神経-筋運動器を扱うわれわれの場面で考えてみます。日常生活での「負荷」に対して、「抵抗力」が下がることはあるでしょうか?
S:今の私がそうです!いつの間にやら車やエレベーター、エスカレーターの利用が多くなり、仕事もデスクワークが多くなっているので、これでは基礎体力が落ちますから、いわゆる「抵抗力」は落ちていると思います。
T:神経-筋運動器でいうと、どの局所ですか?
S:とくに下半身! あ、コア(体幹)も‼︎
T:専門家らしからぬ、ザックリとした答えですね(苦笑)。
S:いえ、腰部でいうと「腹横筋」や「多裂筋」が弱くなって、臀部では「大臀筋」や「中臀筋」「股関節外旋筋群」「大腿四頭筋」・・・。
T:筋肉ばかりだね(笑)。先ほどの「“抵抗力 vs 負荷バランス”で強くなるもの」で考えるとどうですか?
S:訂正させてください(苦笑)。関係する筋肉もそうですが、同時に刺激がない部位の関節や軟部組織局所の「抵抗力」も落ちています。
T:そうですね!では、その原因はなんですか?
S:え、原因ですか・・・。
先ほどの組織が強くなる条件で考えると、刺激/負荷が「少なく」、休息が十分ではないので「疲労が蓄積」して、栄養は・・・。栄養はちょっとわかりませんが、まとめて言うと原因は運動不足ですね!
T:分析が少し出てきましたね。Sさんの場合・・・
①刺激/負荷が「少なく」
②休息が「不十分(=疲労蓄積)」
・・・の2点が原因として考えられるということですね?
それではそれは「なぜ」そうなったんですか?
S:カウンセリングみたいになってきたぞ…。
①の運動不足は、通勤方法と仕事のスタイルがデスクワークだから
②は単純に仕事が忙しくなった
・・・ということだと思います。
T:そう、そこなんですね!通常の問診や治療のアプローチ方法は、「刺激/負荷が十分ではないのでトレーニングしましょう!」とか、「身体が疲れているようですのでマッサージにします」「お疲れのようですので、なんとか休みを作ってください」
…と場当たり的です。
場当たり的な対処では、すぐに外傷や障害を繰り返し、再発リスクを上げ、慢性化するのを防げない場合が少なくないです。それを防ぐためにも、
・なぜそのような状態になってしまったのか?
・どうしてそのような状況に陥ってしまったのか?
と言った視点で「行動分析」をしていく必要があるんですね。「行動分析」というと大げさですが、要は環境(職場/通勤/家庭…)と患者さんとの相互作用という面からリサーチして、「刺激-休息-栄養」について、また局所への刺激について、症状とその行動との因果関係を探していけば根本原因が推測できてきます(表1)。
S:なんだか今までは「使いすぎ」「使わなすぎ」とか、負担がなんとなくかかっているとか、大雑把に考えていたけれど、もっと詳細に考えないといけないみたいですね・・・。
T:「みたい」ではなく、考えるべきです! それでは「抵抗力」が変わらず、「負荷」が上がることはありますか?
S:こっちのパターンの方が思いつきやすいです。例えば、急に準備もせず町内会のマラソン大会に出場したり、普段はしないのに家族サービスと称して夏休みに子供と山登りをしたり、引っ越しをしたり。
T:で?
S:その結果、局所の「抵抗力」を超えて、場合によっては短期間なので組織破壊が生じないような外傷が発生します。
T:素晴らしい! パーフェクトな回答です。「抵抗力 vs 負荷」のアンバランスでは(図3)、
①「負荷」は変わらないのに「抵抗力」が下がる場合
②「抵抗力」が変わらないのに「負荷」が上がる場合
③両方とも変化する場合
(「抵抗力」は下がり、「負荷」が上がる)
・・・がありえますので、「刺激-休息-栄養」から考えて、解決策を提案していく配慮が必要ですね。時にライフスタイルやワークスタイルに関与して、患者さんの 「行動」 や 「行動の基になる意識」 を変えるアプローチが必要になります。
S:そこまでやるんですか?
T:保険診療で時間制限がある職場では、なかなか問診での情報集めが難しいことは理解できます。ですが、治癒経過を阻害する要因として、ライフスタイルやワークスタイル由来の症状に対して、どうして片側ばかり「抵抗力」が下がっているのか、どうして代償しているのか…あれこれ現象ばかり考えたり、対症療法ばかりで再発を繰り返しているのであれば、結果を出すために介入することも考えたほうが良いでしょう。
・・・続く。
※なお、この文章は編集部の許可を得て掲載しております。
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