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個人で異なるストレスの感じ方

2017.08.15

 

こんにちは。日本オランダ徒手療法協会の木内です。

 

近年、脳科学の進歩と共にストレスが身体に及ぼす影響について、今までの常識を覆すような大きなパラダイムシフトがありました。それは、ストレスが全く関係ないと考えられてきた腰痛をはじめ、筋骨格系疾患に大きな影響を与えるということです。

 

ストレスによる身体の反応によって、あなたが提供しているリハビリが良い/悪いに関係なく、全く無駄になってしまう可能性があります。

 

そのため、身体的な評価に加え、心理社会的な面の評価が重要となるのですが、「ストレス」という概念や実態が主観的すぎて一定の評価ができないことが問題でした。

 

そこで、今日はそんなストレスが身体に与える影響を理解/評価するにあたり、「個人におけるストレスの感じ方の違い」「ストレスの判断基準」について、分かりやすく紹介されている記事をご紹介いたします。主観的な「ストレス」を客観的に捉えるための方法も紹介されていますので、ぜひご一読ください。

 


 

月刊スポーツメディスン No.190 5月号 2017年

連載 実践力を上げるための「根本原因と推察しうる要因や理論の使い方」②

-局所循環を大きく変える「心理社会的要因」を臨床ではどう考えるか?-

 

はじめに

ヒトは本来、自然治癒する方向にいくつかのメカニズムが働いて、自分で身体を整え、修復していく力が備わっています。そのうち、「不必要な炎症反応」と「過剰なストレス反応」は、組織の治癒経過を阻害する要因となる可能性があります。

 

今回は、抵抗力と負荷量のアンバランスなどの物理的な外力の話から一転して、現場ではなおざりにされてしまっている《心理社会的な要因》を原因とする自律神経機能の低下がどのように病態の治癒に影響を及ぼすのか、一緒に考えていきます。

 

以下のケースは、前回のケースを基にして「就労時間の増大」「プレッシャー:上司とノルマ」など、心理社会的要因を加えた内容となっています。早速以下、いつもと同様にT:土屋潤二、S:生徒で示し、対話形式で進めていきます。

 

 

[ケースの情報]

30代 男性 サラリーマン(事務職)

学生時代はサッカー選手で活躍。4年次の10月に行われた試合中に、接触プレー中に右膝外側を痛めてしまい、残りのシーズンを棄権。結局、保存療法ではあったが、復帰には十分な局所の抵抗力/体力が戻らず、プロ・サッカークラブでのセレクションがかなわず、サッカーを諦め、就職。その後、サッカーをやらなくなった。

 

昨年より社内で部署が異動となり、仕事が急にハードになった。さらに、職場の上司のプレッシャーが半端なく、半年前から、成果に応じた報酬体系に変わった。常に結果を求められ、繁忙期には一時期、残業時間が「30時間/週」を超え、0時を超えての帰宅も当たり前となっていた。

 

運動不足の自覚もあり、4〜5ヵ月ほど前から、10年ぶりに社内のフットサル同好会に参加。プレーするたびに数日間ほど同じ右膝外側が痛かった。ここ1〜2週間、普通の歩行でも違和感を感じたまま歩いており、気がつくと足を引きずるようなかばった歩き方になっていた。

 

(条件)

①  大学4年:右膝外側の外傷時には少し腫脹がみられた=関節「内」の組織が損傷?

②  大学卒業後から10年間に膝の症状はなし。

③  その10年間、まったく運動はしなかった。

④  もともと膝が伸展時に内側(Knee-in)にアライメントがズレている。

⑤  右大腿四頭筋:萎縮、とくに内側広筋が著しい。

⑥  発症後、約4〜5ヵ月

⑦  プレー中も少し違和感を感じ、ここ1〜2週間は日中の歩行時にも違和感を感じている。

⑧  治癒経過を阻害する要因として心理社会的要因(職場上司のプレッシャー/かなり長い残業時間)がある。

 

ストレスの判断基準

T:今回のケースでは、前号と同じように膝に問題を抱えているのに加え、このサラリーマンは相当ハードに働かれています。

 

S:残業時間が「30時間/週」を超え、「夜中0時を超えての帰宅も当たり前」・・・って、9時から17時までで「8時間労働」だから、計算すると「70時間/週」!  これはきついですね。こんなブラックな会社でしたら、私は辞めます。

 

T:え〜、Sさんの希望は別にして話を進めていきます。最初に、繁忙期がどれくらいの長さなのかが分かりませんが、「70時間/週」も働き続けていれば、過労による疾病に陥るリスクは相当高いですね。まあ、繁忙期が過ぎれば「40時間労働」に戻るのでしょう。

 

S:・・・。

 

T:時間的な問題だけですか?

 

S:うーん。。。成果報酬は相当プレッシャーになると思います!

 

T:そこは、注意しなければいけませんね。しかし、全ての人にとって「成果報酬」が悪いとは言えません。もともと、働く動機づけの部分で、売上げに応じて報酬を上下変動する契約のほうがよい・・・という人もいるのでできた雇用契約です。それではプレッシャーなのかどうか、何で判断しましょうか?

 

S:判断基準ですよね?うーん、分かりません。

 

T:そうですよね。同じ条件や環境、人間関係でも、ある人にとってはストレスに感じたり、別の人にとっては良い動機づけとなる。

 

S:僕は無理です!! 安定が一番いいです。

 

T:ハイハイ、S君の希望は分かりました(苦笑)。いずれにしても、ストレスは個人差が大きいのは想像できますよね?

 

ストレスの強さを見える化する⁉︎

S:どれくらいストレスを感じているかは個人差がある⁉︎

 

T:そう。ストレスの強さを点数化する試みがあります。それは、1年間に経験したイベント(出来事)を合計して、どれくらいストレスが蓄積しているかを把握しようという試みです。

 

S:え? ストレスって足していくようなものなんですか?

 

T:後で述べますが、ストレスは単発よりも複数ある方が、ストレスの刺激が長期間に及ぶといろいろと問題になってきます。その方法とは、大阪樟蔭女子大学が日本で行った調査を基に点数を定めた「ライフイベントストレスチェック」という方法です。

 

ライフイベント☑︎ストレスチェックをやってみたい方はこちら

 

この方法では、1年間に身の回りに起こった「睡眠習慣の大きな変化」「家族構成の変化」「夫婦げんかをした」などの出来事にチェックしていくと、最後に自動的に合計点数が出るようになっていて、自分自身がどんなストレスにさらされているか、客観的に評価できるように考えられています。

 

S:症状として自律機能が変で、その原因も“心因性”でストレスが原因だと考えついたとしても、目に見えるような形で「その原因の大きさ」や「ストレスと感じる対象が何なのか」が推測できないと対処のしようがないですよね。。。

 

そういった意味では、ストレスチェックで「ストレスの強さを見える化」することは、医療従事者にとって非常に有益な情報だし、患者さんへの説明で説得力が増すと思います!

 

T:確かにそうですね。“痛み” や “ストレス” などは評価しにくいから、対応もアバウトなものになっていました。例えば、主観的な「痛み」の強さを客観的にわかりやすくする方法として「ペインスケール(0〜10の11段階の数字を用いて、患者自身に痛みのレベルを数字で示してもらう方法)」の登場によって、継続的にその変化を追うことで、患者さん本人の “痛み” に対する傾向が以前よりもかなり妥当性を持って掴めてきています。

 

よい出来事もストレス⁉︎

S:あれ? チェック項目に「特別な成功」とか、「昇給した」などの良い事も含まれています(図1)が、これはどうゆう事でしょうか?

 

図1 チェック項目に含まれる内容

 

T:そう、ストレスは不幸なこと、悪い出来事ばかりではなく、喜ばしいことや嬉しい出来事の時にも生じるのです。そういう意味では、ストレスは日常の恒常な状態から外れた出来事であれば<すべて>ストレスになります!

 

S:何でもストレスなんですね。

 

T:この精神的な刺激としてのストレスが適度にあることは、人間が免疫力を獲得したりと良い面もあり、「ストレス=悪」という考えは間違いです

 

体内環境 〜カラダの中で何が起こっているのか?〜

S:「ストレスチェック」で点数が高い、低いなどの結果が出てきたとして、それをこのケースにどう当てはめて考えればよいのでしょうか?

 

T:このサラリーマンの身体のなかで何が起こっているのか・・・、ということを見極めることが大切になってきますね。

 

S:具体的に、何を診ればよいのでしょうか?

 

T:このケースでは、痛めている膝が「治らない」ことが問題です。では、なぜ治癒経過が阻害されているのでしょうか?

 

S:局所の「抵抗力」と「負荷量」の問題があるにしても、ターゲット組織の「抵抗力」が十分に強くなってこないことが問題だと思います。

 

T:組織が構造的に強くなる条件は、なんでしたか?

 

S:「適度な刺激」と「適度な休息」、そして「適度な栄養」の3つです(図2)。

 

図2 組織を構造的に強くする条件

 

T:このケースでは、その条件は揃っていますか?

 

S:「休息」については、繁忙期は確実に十分ではないです。しかし、ずっと忙しいわけではないですし、繁忙期以外では休息の時間は十分にあると思います。「刺激」については、業務が忙しくなったとしても、仕事内容がアクティブに活動しているわけではないので、それほど変わっていないと思います。

 

T:・・・と、言うことは?

 

S:「栄養」が十分ではない⁇

 

T:そうそう、局所的に右足だけ「栄養」が足りていないんです。カラダ全体ではなく、局所だけ「栄養」が足りていない状態。選択的に自律神経の機能が低下してしまっているということです…。

 

・・・次回に続く。

※なお、この文章は編集部の許可を得て掲載しております。

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この記事を書いた人

kiuchi takahiro

木内 隆太

柔道整復師、日本サッカー協会B級コーチ。 骨折・脱臼・捻挫などの外傷を扱う鍼灸接骨院にて6年間臨床に従事。 臨床とスポーツ現場に活動のフィールドを選び『再発予防やパフォーマンスアップを通じて臨床とスポーツ現場を繋ぐこと』を目標に土屋氏の下で、オランダ徒手療法を学ぶ。